(87)エルフと愛情
いつの日か、フィリアのエプロン姿が思い出になる――そんな考えが胸をよぎる中、料理を進めていた彼女がふと手を止め、俺に声をかけてきた。
「ユウトさんのお力を借りずに仕上げようと思ったのですが…わ、私一人ではまだまだなところがあって…」
彼女は少し恥ずかしそうに微笑みながら、お玉を差し出してくる。
「こちらのかきたま汁の味見をお願いできますか?お味の調整が難しくて…」
差し出されたお玉には、黄金色のスープが注がれ、ふわふわの卵が浮かんでいる。スープから漂うやさしい香りに、フィリアの頑張りが詰まっているのを感じ、胸が熱くなった。
俺はスープを一口すすり、舌の上で味を確かめる。出汁の風味と卵の甘みが広がるが、ほんの少し塩味が足りない。
「うん、ちょっと塩を足したら完璧だと思う。ほんのひとつまみでいい。」
フィリアは真剣な顔で頷き、手早く塩を加えてスープをかき混ぜる。その動作には、彼女の一生懸命さがにじんでいて、見ているだけで微笑ましかった。
「次は何をすればいい?」俺がそう尋ねると、彼女は少し考えた後、照れたように答えた。
「では…豚肉の盛り付けをお願いしてもよろしいでしょうか?美しく見えるようにしたいのですが…どうも難しくて。」
彼女の言葉に頷きながら皿に目を向ける。そこには照りが美しい焼きたての生姜焼きが並び、タレが艶やかに絡んで食欲をそそる。俺は箸を手に取り、一枚ずつ慎重に並べていく。彩りを考え、隣に添える野菜の配置にも気を配りながら仕上げた。
「こんな感じでどう?」完成した皿を彼女に見せると、フィリアの目が輝き、声が弾む。
「すごいですわ…お料理がこんなに綺麗に見えるなんて…ユウトさん、本当にありがとうございます!」
テーブルに並べられた料理は、どれも見事だった。豚肉の生姜焼き、ほうれん草のゴマ和え、そしてふわふわ卵のかきたま汁――どれもがフィリア自身の優しさや真心をそのまま形にしたような、温かみのある盛り付けだった。
「フィリア、すごいな。料理、こんなにうまくなるなんて思わなかったよ。」
本心からそう伝えると、彼女は少し照れたように笑い、声を落として話し始めた。
「おばあさまがいろいろ教えてくださったんですの。『料理は愛情が全て』と何度もおっしゃって…それで、これまでお世話になったユウトさんのことをずっと思い浮かべながら、作ったんです。おかげで、やり遂げることができました。」
彼女の言葉を聞いて、ばあちゃんがどれだけ親切に教えてくれたのかが伝わってきた。そして同時に、自分のことを考えながら作ったと言われたことで、胸がじわりと熱くなる。
「それで…もう一つ、お姉さまに教えていただいたことがありますの。」フィリアは少し恥ずかしそうに視線を上げる。
「お姉さまに、『自分の気持ちは、待っているだけじゃ伝わらない』と教えていただきました。それで、忙しいユウトさんに…何か恩返しがしたいと思ったんです。」
言葉を切り、小さくため息をつく彼女は、ほんの少し俯いた。
「でも、結局こうして手伝っていただいてしまって…申し訳ないですわ。」
その声には申し訳なさがにじんでいたが、彼女の一生懸命な気持ちは痛いほど伝わってきた。俺は箸を置き、彼女の目をまっすぐ見つめる。
「フィリア、その気持ちだけで十分だよ。料理を一緒に作れて楽しかったし、こんなに美味しそうな料理を囲めるなんて、それだけで俺は感謝しかない。」
俺の言葉にフィリアは一瞬驚いたような顔をし、それから照れくさそうに微笑んだ。その笑顔があまりにも眩しくて、俺は目を逸らしそうになるほどだった。
その夜、テーブルを囲みながら感じたのは、料理の温かさを超えた何かだった。言葉にしきれない思いが、俺たちの間に静かに流れていた。それは、特別な時間だった。
この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。
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