(86)エルフとキッチン
キッチンに立つフィリアの姿を見た瞬間、思わず息を呑んだ。エプロンを身にまとい、銀色の髪をポニーテールにまとめたその姿は、まるで普段の彼女とは違う、柔らかな雰囲気をまとっていた。髪を結んでいるだけでこんなにも印象が変わるなんて、反則だろうと思う。視線を外したいのに、どうしても目が離せない。
エプロン越しにすらわかる華奢な体つきが、どこか頼りなさげな印象を与える。でも、それが逆に守ってあげたいという衝動を掻き立てるから、困る。ポニーテールにまとめられた銀髪が、彼女が動くたびにふわりと揺れ、そのたびにキッチンの明かりを反射して輝く。その光景は、なんとも言えない神秘的な美しさだった。
「あ、ユウトさん…すみません…おばあさまに作り方は教えていただいたのですが、まだ完成していなくて…」フィリアは振り返りながら、手元の丸い玉ねぎを少し持ち上げた。「あの、タマネギはこんな切り方で合っていますか?」
彼女の瞳は真剣だったが、少しだけ自信なさげな色が混じっている。それがまた彼女らしい。俺はその瞳に一瞬吸い込まれそうになり、慌てて目を逸らした。見惚れていたことが、どうかバレていないことを祈りながら。
「あ、ああ、大丈夫だと思う。うん!」声が裏返りそうになるのをなんとか堪えて返事をしたが、自分の挙動が怪しいのは自覚していた。
フィリアは頬にかかった一筋の髪を指で払って微笑む。その仕草があまりにも自然で無防備で、俺の心はさらにざわつく。頼むから、そんな可愛らしい表情をされると、呼吸がまともにできなくなる。
彼女は再び玉ねぎに向き合い、小さな声で「えい、えい」と呟きながら包丁を動かしている。その子どもじみた言葉遣いがどこで覚えたのかはわからないが、思わず笑いそうになる。いや、今は笑ってる場合じゃない。俺は彼女の作業をちゃんと見守らないといけない立場のはずだ。なのに、完全に気を取られている。
「ユウトさん、何かおかしいところがありますか?」フィリアが首をかしげながら、不思議そうに見上げてくる。その仕草がまた可愛すぎて、俺の脳内は軽くパニック状態だ。
「あ、いや!何でもない!そのまま続けて!」慌てて言葉を返すと、彼女は素直に頷き、また作業に戻った。
そんなふうに一緒に料理をしている時間が、どれだけ特別なのか、改めて実感していた。でも同時に、彼女がもうすぐ異世界に帰ってしまうという事実が、心を締め付ける。
このエプロン姿のフィリアがキッチンに立つ光景を、きっといつか思い出すだろう。それがわかっているからこそ、今この瞬間を大切にしたいと思った。
この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。
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