(81)エルフと試作品
フィリアが帰るまで、あと6日。
木曜日の朝。カレンダーをぼんやり眺めながら、今日は信用金庫のお姉さんが新しい商品アイデアについて相談に乗ってくれる日だと気づいた。冷凍タオルの試作品は何とか形になったものの、みかんラッシーの方はまだサンプルが届いていない。とはいえ、銀さんやばあちゃんのおかげで話が進んだのは確かだ。今回はアイデアだけでも伝えようと心を決める。
銭湯の入り口を掃除していると、カツカツとヒールの音が近づいてきた。顔を上げると、パンツスーツ姿のお姉さんが颯爽と歩いてくる。その洗練された雰囲気に自然と背筋が伸びた。
「おはようございます、悠斗くん。今日も頑張ってるね。」
涼しげな笑顔に一瞬ドキリとしながら挨拶を返す。すると、彼女の視線がフィリアに移った。
「フィリアちゃん、今日の服すごくかわいいね!」
お姉さんはフィリアの白いワンピースと麦わら帽子を見て感激したように声を上げる。
「お褒めいただきありがとうございます…」
フィリアは少し照れた様子で小さな声で応じた。その控えめな微笑みに、俺はなぜか誇らしい気持ちになった。
お姉さんを店内へ案内し、椅子に座ると早速冷凍タオルのアイデアを説明する。
「冷凍タオル、特に暑い夏にはすごく良さそうね。ただ、使うたびに冷凍庫から取り出すのはお客様にとっても手間になるし、銭湯の限られたスペースで冷凍庫をどう活用するかが課題ね。でも、アイデアとしてはとても面白いと思うわ。」
お姉さんは真剣にメモを取りながら、的確な意見をくれる。その言葉に、胸の奥で少し緊張がほぐれるのを感じた。
次に、みかんラッシーの話題を切り出す。しかし、サンプルがまだ届いていないことを伝えると、言葉が詰まった。
「銀さんとばあちゃんのおかげで話は進んだんですが…サンプルはまだで…」
声に自分でもわかるほどの恥ずかしさが滲む。
「でも、それだけ話を進められたのはすごいことよ。」
お姉さんは優しく笑って励ましてくれたが、その言葉がかえって自分の未熟さを突きつけてくるようで、悔しさが胸にじんわりと広がる。
その時、不意に玄関から「ごめんくださ〜い!お届けものです〜!」という配達業者の声が響いた。
「えっ?」
驚いて立ち上がり、入口へ急ぐと、大きな段ボールを抱えた業者が立っていた。
「これ、こちらで合ってますよね?」
段ボールの上には『みかんラッシー サンプル』の文字がしっかり記載されている。
「ここにサインお願いします〜。」
震える手でサインを済ませ、段ボールを抱えてお姉さんの元へ戻る。
「えっ、これ…まさか、みかんラッシーのサンプル?」
お姉さんが目を見開いて驚いている。俺も心臓がバクバクしていた。
「お盆の最初に相談したって言ってたよね?それなのに、先方の企業さん、お盆返上で作ってくれたの…?」
「お、俺もびっくりです…。もっと先だと思ってました…。本当に…感謝しかないです。」
驚きと感謝の気持ちで胸がいっぱいになりながらそう答える。
三人で試飲することにした。カップに注がれたみかんラッシーからは、みかんの爽やかな香りが広がる。一口飲むと、濃厚なミルクの甘みとみかんの酸味が絶妙に調和していた。
「これ、美味しいわね!みかんのフレッシュな味がしっかり感じられるし、後味がさっぱりしてる!」
お姉さんが目を輝かせて感想を述べる。
フィリアも一口飲んで、「とても美味しいですわ。夏の暑さにぴったりの味ですのね」と嬉しそうに微笑む。その笑顔がまぶしくて、思わず目を逸らしそうになる。
カップを手に取りながら、俺もゆっくりと口に含む。みかんラッシーの爽やかな味が広がり、心がじんわりと温かくなる。いろんな人に助けられてここまで来た。そのことを改めて噛みしめながら、俺は心の中で強く誓った。
これを次につなげるために、もっと頑張らなくちゃいけない――そう、静かに決意を新たにするのだった。
この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。
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