(60)エルフとアイデア
フィリアが帰るまで、あと12日。
金曜日の朝、布団から起き上がると、昨夜の「冷凍タオル事件」を思い出して自然と苦笑いが漏れた。あの真剣なフィリアの表情や、文化の違いを改めて感じた瞬間を振り返ると、何とも言えない温かさと少しの照れくささが胸に残っている。その一方で、冷凍タオルを銭湯のサービスに活かせないかと考えた自分の発想力にも、少しだけ自画自賛したい気分だった。
実際に冷凍タオルは高温風呂が好きな常連の屈強なお兄さん方や、フィリアファンクラブと化した若者たちには好評だった。ただ、そのターゲット層の偏りが問題だ。お姉さん方やご年配の常連には、「冷凍タオルだけでは物足りない」という意見が出るのも時間の問題だろう。俺としても、一つのアイデアで満足するつもりはない。
そんなことを考えながら朝食の準備をしていると、フィリアがキッチンに現れた。その姿を見ると、自然と「ちょっと相談があるんだけど」と切り出していた。食卓で二人並んで座りながら、俺は朝ごはんを食べつつアイデアを話し合うことにした。
「売るものを増やしたいんだけど、何かいい案はないかな?」 そう尋ねると、フィリアは一瞬考え込んでから、首をかしげた。その仕草があまりにも可愛くて、思わず目が釘付けになる。
「冷凍タオル以外ですと…そうですわね、銭湯にはどのようなお客様が多くいらっしゃいますの?」
フィリアの言葉に、常連たちの顔が次々と思い浮かぶ。その中でも、ある人物の顔が真っ先に浮かんだ。
「あ、そうだ。明日って土曜日だろ? 銀さんが来る日だ」
俺がそう言うと、フィリアは「銀さん…?」と小首を傾げる。
「常連さんのひとりでさ、やたら陽気で目立つお兄さんなんだ。俺が勝手に『銀さん』って呼んでるだけなんだけど。風呂上がりに飲む牛乳が大好きで、『風呂上がりの牛乳のために生きてる!』とか、『お酒は飲めないけどこれがあるからいい』って、毎回豪快に言ってるんだ。」
その言葉を口にした瞬間、あることに気づいた。確かに銭湯には、お酒を楽しむ人はいない。むしろ、風呂上がりに飲むソフトドリンクの需要があるかもしれない。
「新しい飲み物を、この夏限定で導入するのはどうだろう?」
俺の提案に、フィリアの瞳がパッと輝く。
「それは良い考えですわ!どのような飲み物が良いかしら?」
彼女の意欲的な返事に俺もつられてやる気が湧いたものの、そこからが難しい。どんな飲み物が喜ばれるのか、二人であれこれ考えたが、これといった答えが浮かばない。
「うーん、決められないな…」
頭を抱えていると、銀さんのあの言葉がふと蘇る。
『ヒアリングや!』
「そうだ、フィリア。今日はお客さんに聞いてみよう。」
閃いた俺は、フィリアに提案した。
「どんな飲み物が欲しいか、直接お客さんに聞いてみるんだ。俺は番台で話を聞くから、フィリアは休憩スペースの方で意見を集めてくれないか?」
フィリアは嬉しそうに頷き、「お任せください!」と意気込む。その元気な笑顔に、俺も自然とやる気がみなぎってくる。
「お姉さん方にも喜んでもらえる成果を出したいしな。よし、やるぞ!」
こうして俺たちは、分担してヒアリング作戦を決行することに決めた。銭湯の未来を左右するかもしれないアイデア探し。フィリアと一緒に挑むこの計画に、俺の胸は希望と期待でいっぱいだった。
この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。
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