(57)エルフと日焼け
フィリアが帰るまで、あと13日。
木曜日の朝、目が覚めると、体がまるで鉛のように重かった。全身を襲う日焼けのヒリヒリと筋肉痛が、布団の中に俺を縫い止めているような感覚だ。昨日の夜は疲労に飲み込まれて気にもならなかった日焼けの痛みが、今になって鋭く体を責め立ててくる。
「これは…今夜の風呂は地獄だな。」自嘲気味に呟きながら、ようやく体を起こすと、肩や背中に手を伸ばしてみる。触れるだけで痛む肌に深いため息が漏れた。太陽の下で無邪気に遊んだ代償だと思えば仕方ないが、それにしても痛い。
一方で、同じビーチを満喫していたはずのフィリアはどうだろう。彼女の白磁のような肌が日焼けしているなんて、どうしても想像がつかない。日焼け止めの効果なのか、それともエルフ特有の体質なのか。
俺がキッチンで朝食の準備をしていると、フィリアが麦わら帽子を被ってリビングに現れた。朝の光を浴びた銀髪が柔らかな光を放ち、その白い肌は眩しいほどに輝いている。俺は一瞬だけ、彼女がこの世界の存在ではないという事実を思い出した。
「おはようございますわ、ユウトさん。」彼女は控えめに頭を下げながら微笑む。その笑顔に、体中に広がる痛みが少しだけ和らぐ気がした。まるで日差しの下に咲いた花が朝露を受けて輝いているようだった。
「おはよう。フィリア、その肌…全然日焼けしてないのな。日焼け止めが効いたのか?」俺が尋ねると、フィリアは自分の腕を見下ろし、首をかしげた。
「そういえば…私の肌は焼けることがないのですわ。エルフの肌は太陽に強いとか何とか、祖父が言っておりましたわ。」そう言って軽く笑う彼女を見て、俺は苦笑せざるを得なかった。真っ赤に焼けた自分と見比べると、なんとも不公平に思える。
「羨ましい限りだよ。俺なんて、見ての通りヒリヒリだしさ。夜の風呂が今から怖い。」俺はシャツの袖をめくり、火傷したみたいに赤くなった腕を見せた。それを見たフィリアは目を丸くし、「そ、それは…大丈夫なのですか?」と心配そうに尋ねてきた。
「大丈夫だよ。これくらい慣れてるからな。夏の恒例行事みたいなもんだ。」そう言いながら肩をすくめてみせたが、実際のところ、夜の風呂を想像するだけで憂鬱になる。日焼けした肌に熱い湯が染みる痛みは、毎年のことながら慣れない。
朝の準備を終え、銭湯の営業を始めると、昼から夕方にかけては慌ただしい時間が続いた。フィリアが忙しい時間帯をしっかり手伝ってくれたおかげで、なんとか順調に仕事を終えることができた。そして夕方、ようやく一息つける頃、ばあちゃんが帰ってきた。
「ただいま。今日は忙しかったかい?」ばあちゃんが笑顔で店に入ってくると、俺は少しほっとしながら「まあな。でも、何とか乗り切ったよ」と答えた。
ふと、ばあちゃんが俺とフィリアを見比べ、何かを思い出したように笑い始めた。まあまあ、あんたたち、茶と白でえらい対比だねえ!」
その言葉に思わず苦笑いが漏れる。確かに、真っ赤に焼けた俺の肌と、相変わらず透き通るように白いフィリアの肌。そのコントラストがまるで冗談みたいに映る。
「ばあちゃん、笑いすぎだろ。」俺がぼやくと、フィリアもきょとんとした表情を浮かべてから、あどけない笑顔を浮かべて言った。「対比…というのは面白いものですわね。ユウトさんが太陽なら、私は月といったところでしょうか。」
その一言に、ばあちゃんはますます笑い出し、「うまいこと言うねえ!」と声を上げた。俺は顔を赤くしながら「もうその辺にしてくれよ」と手を振ったが、フィリアの純粋な言葉とその場の温かい雰囲気に、心がほんのりと和らいでいくのを感じた。
日焼けの痛みはまだ消えないけれど、こうして少し笑いながら過ごせる時間が、やけにありがたく感じられた。その日が終わりに近づくにつれ、夏の一日がまた静かに幕を下ろしていくのを感じた。
この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。
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