(53)エルフと弁当
三人で波と砂浜の間を駆け回ったあとの心地よい疲れが、体の芯に広がっていた。ふと足を止めて時計を確認すると、すでに14時近い。夏の陽射しが照りつける中、時間が経つのを忘れるほど夢中で遊んでいたのだと気づき、俺は周囲に声をかけた。
「ちょっと休憩しようか」
提案に夏菜が「あー、そろそろお腹空いたかも!」と嬉しそうに返事をし、フィリアも麦わら帽子を直しながら「私も…少し疲れてきましたわ」と微笑んだ。その笑顔には疲労というよりも、どこか満たされたような穏やかさが漂っていて、俺も自然と心が和らぐのを感じた。
ビーチから少し離れた松林が広がる公園を目指して歩き始めた。背後に波の音を聞きながら、松の木々が立ち並ぶ静かな場所へと向かうと、風に揺れる葉がやわらかな木陰を作り、やさしい日差しを和らげてくれる。そのひんやりとした空気に包まれ、ようやく体が少し軽くなる気がした。
「ここにしようか」
俺が木陰を指差すと、夏菜がすぐにバッグからレジャーシートを取り出し、手際よく広げ始めた。その動きの早さに感心しつつ、俺もシートを整えるのを手伝った。二人でなんとなく息を合わせて準備を進めていると、フィリアが帽子を押さえながら周囲をきょろきょろと見渡している。
「それじゃ、いよいよお弁当タイムね!」
夏菜が満面の笑みを浮かべながらバッグを開ける様子に、俺はふと数日前のメッセージのやり取りを思い出した。
「ビーチに持ってく弁当、俺が作ろうか?いつも料理してるし」
そう送った俺に、夏菜は即座に「アタシの実力を見せてあげる!」と返信してきた。その文面には、やたらと意気込んだスタンプまで添えられていて、きっと彼女なりに張り切っていたのだろう。
正直、少し不安がなかったと言えば嘘になる。小学生の頃に見た泥団子のような夏菜の料理や、調理実習でこがしたクッキーの記憶が一瞬よぎったのだ。しかし、この日のために頑張ってくれた気持ちを思うと、余計なことは言わないと決めていた。
夏菜が自信たっぷりに弁当箱の蓋を開けた瞬間、その中身に思わず息を呑んだ。
「き、綺麗ですわ~!」
フィリアが目を輝かせて歓声をあげる。その反応に、夏菜は「でしょ!」と胸を張り、誇らしげに笑う。その表情が、どこか子どものように無邪気で、俺の胸に温かい気持ちが広がった。
弁当箱の中には、黄色のふわふわした卵焼き、赤く鮮やかなミニトマト、緑色が映えるブロッコリーと、見事な配色が広がっていた。唐揚げもウインナーも程よい焼き色で、見ただけで食欲をそそる仕上がりだ。そのクオリティの高さに、驚きと感心が入り混じる。
「すごいな夏菜…!」
正直な気持ちをそのまま口にすると、夏菜は鼻を高くして「ほらね!これがアタシの本気!」と得意げに笑う。その笑顔を見た瞬間、これまで彼女がどれほど頑張ったのかが自然と伝わってきた。
フィリアは「どれからいただこうかしら」と少し迷いながら、夏菜に勧められて卵焼きから手をつけた。一口頬張ると、彼女の表情が一瞬で柔らかくなり、目を閉じて味わう。
「ふわふわで…とても美味しいですわ!」
その感想に、夏菜はさらに誇らしげに胸を張り、「当たり前じゃない!」と答える。俺も唐揚げを口にしてみると、想像以上に柔らかく、ジュワッと肉汁が広がる味わいに感動した。
「…夏菜、ほんっと美味しい。見直したよ。」
冗談交じりにそう言うと、夏菜は「まぁ、たまにはね!」と照れたように笑いながら返してきた。その頬がほんのり赤く染まっているのを見て、俺の胸に妙な温かさが広がる。
松の木々が風に揺れる音と、三人の笑い声が静かに重なり合う。フィリアが次々と料理を味わい、そのたびに感激したように表情を輝かせ、夏菜が得意げに微笑む。その光景を眺めながら、俺はふと、今日のこのひとときがきっと忘れられない思い出になるだろうと確信していた。
この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。
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