(52)エルフとビーチ
ついにフィリアと一緒にビーチへ足を踏み出した。白くきめ細かな砂が足元をふわりと包み込む感触に、新しい世界へと踏み込んだような不思議な感覚を覚える。歩くたびに砂が崩れ、柔らかい抵抗感が足裏に伝わる。そのたびにフィリアが驚いたように足元を見つめ、「あら…面白いですわね」と小さな声でつぶやく。その声には驚きと興味が入り混じっていて、俺は自然と笑みを浮かべた。
波打ち際へと近づくと、透き通る青い波がそっと足元を撫でていく。フィリアは冷たい水に触れた瞬間、思わず「ひゃっ!」と可愛らしい声をあげて足を引っ込める。その仕草があまりに無防備で、俺は思わず微笑みながら声をかけた。
「びっくりしたか?」彼女は恥ずかしそうに頬をほんのり赤く染め、小さくうなずく。そしてもう一度波に向かって慎重に足を伸ばし、恐る恐る波に触れる。その姿はまるで未知のものに挑む冒険者のようで、どこか微笑ましかった。
「遠くから見ると青色なのに、こうして手ですくうと透明で…不思議ですわ。それに、この海の香りも…なんだか心が落ち着きますわね」
フィリアはそう言いながら胸いっぱいに潮風を吸い込むと、空を見上げて目を細めた。その仕草はまるで、この瞬間を全身で感じ取り、心に刻みつけようとしているようだった。青い空と海、そして白い砂浜を背景にしたフィリアの姿が、いつもの何倍も輝いて見えた。
俺がその穏やかな表情に見入っていると、不意に夏菜の元気な声が響いた。
「ねえ、さっさと遊ぶわよ!いつまでしんみりしてるのよ!」夏菜はその特有の明るさで、フィリアの手をさっとつかむと、そのまま波の中へと連れ込んだ。フィリアは驚いたように「きゃっ!」と声をあげ、ふらつきながらも、どこか楽しそうな笑顔を浮かべていた。
「わ、わっ!冷たいですわ!」フィリアがバランスを崩して波の中に倒れ込み、小さく水しぶきを上げる。その様子を見て夏菜が笑い出し、フィリア自身も驚きながらも楽しそうに声をあげた。
「しょ、しょっぱいですわ〜!」その無邪気な笑顔に、俺も思わず顔がほころぶ。まるで新しい世界を発見した子どものようなその表情が、胸にじんと染みた。
そして、フィリアは突然真剣な顔つきになり、こちらを向いて言った。「このお水も、ユウトさんの料理に使えそうですわね!」
その言葉のあまりの純粋さに、一瞬どう返事をすればいいのか迷ったが、気づけば笑いがこぼれていた。
「そうだな、塩が取れるかもしれないし…今度試してみるか?」冗談交じりに返すと、フィリアは嬉しそうに大きくうなずき、再び波に手を伸ばして水をすくい上げていた。その様子があまりに楽しそうで、俺もなんだか穏やかな気持ちになれた。
しかし、その平和なひとときは夏菜の声で一気に動きを取り戻す。
「さあ、体を動かすわよー!」夏菜が俺が膨らませたビーチボールをポンとフィリアに向かって投げた。フィリアは突然のボールに戸惑いながらも、なんとか両手で受け止めようとする。
「わ、わ、わ!」よろめきながらもどうにかキャッチしたフィリアの姿に、俺も夏菜も思わず笑い声をあげた。
「ほら、フィリアちゃん、もっと力を込めて返してきなさいよ!」夏菜が手を広げて待ち構えるのを見て、フィリアは少し不安げな表情を浮かべながらも思い切ってボールを投げ返す。
「い、いきますわ!」彼女の投げたボールは大きな弧を描きながら夏菜の方へ向かい、見事にキャッチされた。その光景に、俺もつい波を蹴り上げながらボールを追いかけていた。
波打ち際を走り回り、砂を蹴り、波を浴びながら、俺たちは声を上げて笑い合った。この瞬間、波と砂の間にいるのは俺たちだけのようで、夏の空気を全身で感じていた。
この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。
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