(49)エルフと旅路
ビーチへの道のりは、想像以上に過酷だった。夏の陽射しは容赦なく降り注ぎ、風は涼しさどころか熱をまとって吹きつけてくる。自転車を漕ぐたびに湿った空気がまとわりつき、じわじわと体力が削られていく。それでも、二度のコンビニ休憩が、俺たちにとって小さなオアシスとなった。
最初の休憩は、夏菜の機嫌を少しでも和らげるためだった。コンビニに着くなり、夏菜は迷うことなくアイス売り場へ一直線。あれこれと棚を物色しながら、ようやく手に取ったのは二つに分かれたアイスだった。
「ほら、あんたも食べるでしょ?」
包みを開け、アイスをパキッと割って片方を差し出してきた彼女の表情には、どこか得意げなものが浮かんでいる。
「…ありがとう。」
素直に受け取ると、夏菜は満足げに胸を張りながらこう付け加えた。
「これね、二つになってるのは、誰かと分け合うのが正しい食べ方なのよ。知らなかったでしょ?」
一口アイスをかじる彼女の横顔はどこか子どもっぽく、少し可愛げがあった。その様子を見ていたフィリアは、一瞬だけ羨ましそうな表情を浮かべたが、すぐに視線を落としてしまった。その仕草が妙に心に引っかかったが、今は夏菜の機嫌が和らいだことにホッとすることにした。
二度目の休憩は、地図アプリで目的地が近いと確認できたタイミングだった。自転車を停め、コンビニに入り、今度はフィリアのために何か買ってあげようと考えた。選んだのは、甘いサイダーとピーチ色の小さなフルーツアイス。会計を済ませて彼女に手渡すと、フィリアは驚いたように目を見開き、それから満面の笑顔を浮かべた。
「あ、ありがとうございます!」
その声に滲む喜びが、俺の疲れた心と体を癒すようだった。一方で、夏菜は「ふーん」とわざとらしくため息をつき、俺たちを横目で見ている。
「まさか、私にはないわけないよね?」
軽く挑発するような口調に、俺は苦笑いを返しながら、彼女にもサイダーを買って渡した。夏菜のいつもの調子が戻ってきたことに少し安堵する。
そして、ようやく辿り着いたストレートビーチ。時計を見ると、針はちょうど昼の十二時を指している。目の前に広がる景色に、俺はしばらく動けなかった。真っ白な砂浜が果てしなく続き、波打ち際では透き通った水面が太陽の光を受けてキラキラと輝いている。まるで時間が止まったような美しさだった。子どもの頃に見たあの光景が、鮮明に蘇る。俺の中で、この瞬間が少しだけ特別なものになった気がした。
「ほらね、アタシがオッケー出した場所なんだから、間違いないでしょ!」
横から聞こえた夏菜の声に、思わず顔を向ける。満足げに胸を張って自慢するその姿が、なんだか子どもっぽくて可愛らしい。
「はいはい、さすが夏菜様ですね。」
適当に流しながら笑うと、夏菜は「もっと褒めなさいよ!」と笑いながら軽く肩を叩いてきた。こんなやり取りも、もう何度目だろう。でも、今日はなんだかそれすら心地いい。
一方で、フィリアは完全に圧倒されていた。目の前の海と空を、まるで何か神秘的なものを見るような眼差しで見つめている。その銀髪が太陽の光を受けて淡く輝き、その姿があまりにも自然とこの景色に溶け込んでいた。思わず息を呑んでしまう。
「ねぇ、場所取りは任せて!」
夏菜は一声かけると、そのまま砂浜へと走り出した。足元の砂が跳ねるたびに、無邪気な笑顔が輝いている。その後ろ姿を見送りながら、俺はフィリアの隣でそっと息をつく。
フィリアが初めて目にするこのビーチが、彼女にとって忘れられない思い出になりますように。そんな願いを胸に、俺はフィリアの横顔を一瞬だけ見つめ、再び目の前の夏の光景に目を戻した。
この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。
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