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(48)エルフと後ろ

銭湯の外に出ると、夏の朝が全身に降り注ぐようだった。まばゆい陽射しが地面に映える白い反射を際立たせ、空はどこまでも澄み切っている。乾いた風が頬を撫で、ほのかな石鹸の香りがまだ残る空気の中に夏の匂いが混じっていた。俺は倉庫に向かい、錆びついた鍵をひねる。古びた音とともに扉が開き、久々に日の光を浴びたママチャリが姿を現す。


「ごめんごめん、待たせた。」

引き出した自転車を押しながら、夏菜の元へ向かうと、案の定、彼女は腕を組み、俺をじとっと睨みつけていた。


「レディを待たせるなんてNG集の第一位よ!」

小柄な体で勢いよく断罪するような声。そんな様子に、俺は思わず苦笑いが漏れる。


「じゃあ、残りの99個は?」

軽く流すように尋ねると、彼女はふんっと鼻を鳴らし、腕を組んだまま意気揚々と答え始めた。


「例えば、女の子の服に気づかないとか、メッセージを既読スルーするとか、髪型変えたのに褒めてくれないとか…あと──」


次々と出てくる不満リストに適当に相槌を打ちながら流していると、ふと背後に動く影を感じた。振り返ると、フィリアが控えめにこちらへ歩いてくる。その慎重な歩き方が頼りなげにも見えるけど、不思議と彼女の存在感は強い。


「おっ、フィリアちゃん、水着もう着てきたのね!その方が楽だもんね!」

夏菜が明るい声で話しかける。その言葉に、フィリアは一瞬驚いたように目を丸くし、それから控えめに頷いた。その仕草にホッと安堵する。夏菜が余計な詮索をせず、自然に受け入れてくれたことがありがたかった。


「で、フィリアちゃんの分の自転車は?」夏菜が当然のように尋ねる。俺は少し気まずい気分になりながら、ママチャリの後ろの荷台を指さした。


「こ、ここ…」


「え!」

夏菜の声が夏の空気を切り裂くように響く。彼女は驚きで目を見開き、俺をじっと睨みつけてきた。その視線には、不満とやるせなさが混じっている。


「ずるい…!フィリアちゃんだけ後ろに乗れるなんて!」

当然だ。片道一時間の道のりを思えば、誰だって後ろに座って楽をしたいと思う。それでも、フィリアが自分で自転車を漕ぐのは現実的ではない。


「よ、よし、じゃあ途中でコンビニに寄るから、三十分経ったら交代──」

そう言いかけたが、彼女が不安げに俺を見つめるのに気づき、即座に却下するしかなかった。


「ええっと…夏菜の好きなアイス買うから。それで今日は手打ちってことでどう?」

なんとかその場を収めようと提案すると、隣でフィリアが俺の「手打ち」のポーズをぎこちなく真似しているのに気づく。その無邪気な仕草が妙に可愛く、思わず笑いそうになった。


「だ、大丈夫よ!じゃあ、いつかアタシも悠斗の自転車の後ろに乗せてよね!約束よ!」

夏菜はため息をつきながらも、最後には微笑んでくれた。それを見て、俺も胸をなでおろす。


ママチャリにまたがり、フィリアを後ろに乗せると、彼女がそっと俺の背中に腕を回してきた。その細い腕の感触と、わずかに伝わる緊張感が俺の胸に微かな高鳴りをもたらす。


「い、いいのですか…わ、私だけ…」控えめな声でそう呟くフィリアに、俺は「気にするな」と軽く返した。


そのやり取りを横目で見ていた夏菜が、じとっとした表情でこちらを見つめている気がしたが、ここで気にしていては前に進めない。


「さ、行こう!」声を張り上げ、ペダルに力を込めた。ママチャリが動き出し、夏の風が頬を撫でる。遠くに見える青い空と、その下に広がるストレートビーチを目指して、俺たちはようやくスタートを切った。

この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。


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「続きを読みたい!」と思っていただけた際は、ぜひ【★★★★★】の評価やコメントをいただけると嬉しいです。Twitter(X)でのご感想も励みになります!皆さまからの応援が、「もっと続きを書こう!」という力になりますので、どうぞよろしくお願いいたします!


@chocola_carlyle

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