(39)エルフとグルメ
フィリアが帰るまで、あと17日。
日曜日の昼前、銀さんが教えてくれたグルメフェスの会場は、近くの公園だった。家から近いし、軽い気持ちで出かけたのはいいものの、夏の日差しは想像以上に厳しく、炎天下の中を10分歩いただけで汗がじわりと滲む。背中のシャツが肌に張り付く感覚が、なんとも不快だ。
ようやく公園の入り口にたどり着くと、そこには金髪にシルバーアクセサリーをじゃらりと光らせた銀さんが立っていた。派手なアロハシャツを着こなしている姿は、南国の観光ガイドか何かの撮影でもしてるのかと思うほど。それにしても、暑さなんてどこ吹く風、といった余裕っぷりだ。
「おう、来たな!待っとったで!」
銀さんが手を大きく振りながら近づいてきた。その朗らかな声に、正直、ちょっと疲れていた俺の心も少し軽くなる。
「相変わらず派手っすね…」
冗談交じりに言うと、銀さんは胸を張って自信満々に笑った。
「夏っちゅうのはな、これくらい派手でちょうどええんや。ほれ、まずは熱中症対策や!」
そう言って渡されたのは、冷えた透明カップ。中には濃い色の麦茶が入っている。周りを見れば、大人たちはビール片手に楽しんでいる人が多く、麦茶はなんとなく地味に見えたけど、銀さんの気遣いが妙に嬉しい。俺は素直に受け取って、一気に飲み干した。
「ふぅ…ありがとうございます。めっちゃ効きますね。」
冷たい麦茶が喉を通ると、体の芯からスッと涼しくなる。汗ばむ肌もなんだか少し落ち着いた気がした。
「さぁ、積もる話もあるやろうけど、まずは腹ごしらえや!」
銀さんはそう言うと、俺の肩をポンと押して、会場の屋台へ向かわせる。
会場に一歩踏み込むと、肉が焼ける香ばしい匂いとタレの甘い香りが立ち込めていて、腹の底から食欲が湧き上がる。焼きとうもろこしやフランクフルト、スパイシーなカレーの香りまで、次々と鼻をくすぐってくる。銀さんは目を輝かせ、次々と屋台を物色し始めた。
「まずはこれや!」
銀さんが指差したのは分厚い牛串。肉汁が滴り、甘辛いタレが絡んだ熱々の牛肉は、見ているだけで美味そうだ。一本を俺に差し出し、「豪快にいけ!」と笑う。
言われるがままにかぶりつくと、肉汁が口の中でジュワッと広がり、タレの旨味と香ばしさが絡み合う。その瞬間、思わず目を閉じて「うまっ!」と声が漏れた。
「どうや!夏はやっぱり肉やろ!」
銀さんのドヤ顔に苦笑しながら頷くと、彼はすでに次のターゲットを見つけていた。「お次はたこ焼きや!」
たこ焼きの列に並びながら、俺はふと疑問が口をついて出た。
「なんでこんなに俺に良くしてくれるんですか?」
銀さんは振り返りもせずに答える。「見てて放っとけんやろが。」
その言葉に、思わず足が止まった。
「顔に『悩み抱えてます』って書いてあるで。」
軽く言い放つその声に含まれる優しさに、胸の奥がちょっと温かくなった。
渡されたたこ焼きを一口食べると、外はカリッ、中はとろりと柔らかい。銀さんが笑いながら「これぞたこ焼きの醍醐味や!」と言うと、つられて俺も笑顔になった。
「な、ええやろ?」
銀さんが満足げに頷きながら次々と屋台を攻める中、俺もつられてどんどん食べてしまった。
そして、腹も満たされてきた頃、銀さんが俺の肩をポンと叩いて言った。「さぁ、腹が満たされたとこで、本題いこか。」
その言葉に、俺は自然と表情が引き締まる。グルメフェスを楽しみながらも、ずっと心に引っかかっていた想い──フィリアや夏菜のこと。それに向き合う覚悟を決めながら、銀さんの隣で芝生に腰を下ろした。夏の青空の下、俺の話が始まった。
この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。
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