(29)エルフと計画
夏菜が試着室に入り、フィリアと入れ替わるようにカーテンを勢いよく開けた瞬間、目に飛び込んできたのは鮮やかなオレンジ色のビキニを纏った彼女だった。普段の彼女とはまるで違う、堂々とした姿がそこにあった。言葉が喉に詰まり、息をするのさえ忘れそうになるくらいに、目が離せなくなってしまう。
「ど、どう…?」と、胸を張る夏菜。その仕草がどこか挑戦的で、俺の胸が妙にざわつく。普段のボーイッシュな彼女からは想像もつかないほどの大胆さがあり、正直、どう反応していいのか分からない。フィリアの清楚で可愛らしい水着姿とはまた違う、大人びた雰囲気に圧倒されてしまう。
視線を逸らそうとしても、それが失礼な気もして、結局また目が戻る。その一方で、さっき店員が言っていた「またこの水着を試されるんですね」という言葉が頭をよぎる。もしかして、これって最初から計画されてた?彼女がここに来るまで余裕そうに振る舞っていたのも、この瞬間を狙ってたから?そんなしたたかさに気づいて、妙に感心してしまった。
「な、何ジロジロ見てんのよ!」夏菜が突然顔を赤くして声を荒げる。その言葉で我に返った俺は、慌てて言い返す。
「いや、別に…!そもそも水着選びに付き合えって言ったのはお前だろ!」
「うるさい!余計なこと言わないの!」夏菜はさらに赤くなり、視線をそらす。そのやり取りを見ていたフィリアが、小さな声で静かに口を開いた。
「カナさん、とてもお似合いですわ。」その無垢な言葉が場の空気を和らげたのか、夏菜はますます顔を真っ赤にしながらも、小さく笑みを浮かべた。「べ、別に当たり前じゃない…!」と、照れ隠しにそっけない態度を取るものの、その口元は隠しきれない嬉しさでほころんでいた。
そんな二人のやり取りを見て、俺は少し呆れながらも、なんとなくほっとしていた。夏菜の大胆な一面と、フィリアの無邪気な純粋さ。その両方が、今日の買い物を特別なものにしてくれている気がした。
試着を終えた夏菜が普段の服に着替え、ふと真剣な顔で「フィリアちゃんの分、アタシが出すわ」と静かに言った。その突然の申し出に驚いて尋ねると、夏菜は少し視線を外しながら「…たまにはね」とそっけなく返す。その照れたような様子に、普段とは違う彼女の優しさを感じて、なんだか胸が温かくなった。
しかし、それで終わらないのが夏菜だった。財布をしまいながら顔を上げ、「その代わり、水着買ったからには来週の水曜日は絶対ビーチに行くよ!二人とも約束ね!」と、力強い宣言をした。その迫力に圧倒されながらも、俺もフィリアも「う、うん…」と頷くしかなかった。
店を出ると、夕暮れの柔らかなオレンジ色が駅前を染め、涼しい風が頬を撫でていく。夏菜が選んでくれた水着、フィリアが新しく手にした服、そして三人でビーチへ行く約束。どれもが、この夏を特別なものにしてくれそうな気がした。
夕焼けを見上げながら、フィリアが小さな声で「カナさん、本当にありがとうございました」とお礼を言うと、夏菜は少し照れたように笑い、「気にしないで、友達でしょ!」と軽く返した。その言葉が妙に温かく響いて、俺も自然と笑みがこぼれた。
三人で並んで歩く夕暮れの街。オレンジ色の光が差す中、フィリアと夏菜の後ろ姿を見守りながら、俺はこの特別な夏の一瞬を静かに噛みしめていた。
この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。
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