(21)エルフとお姉さん
お昼過ぎ、ついにその時間がやってきた。憧れのお姉さんが、ゆっくりと銭湯の入り口から現れる。その瞬間、まるで空気が一瞬で変わったような気がした。彼女が持つ大人の落ち着きが、何とも言えない特別な雰囲気を生み出している。長い黒髪が肩に流れ、縁の細いメガネの奥で静かに光る知的な瞳。そして、きっちりとしたパンツスーツ姿が驚くほど似合う彼女。その洗練された佇まいに、俺は自然と目を奪われていた。
「信用金庫で地域の経営支援に携わってるんだっけ…。」そんなことをぼんやり思い出しながら、彼女の存在感に圧倒される。そこにいるだけで周りの景色までも引き立ててしまう彼女は、まさに映画のワンシーンに出てきそうな大人の女性そのものだった。
彼女はすぐにばあちゃんと親しげに話し始める。銭湯の今後の経営について、静かで落ち着いた声で真剣に語るその様子に、俺はつい耳を傾けてしまう。正直、話している内容の半分も理解できないけど、その言葉の一つ一つが確信に満ちていて、不思議と引き込まれる。穏やかで知的な声色に、胸の奥がじわっと熱くなるのを感じた。
ふと、彼女が俺に気づき、「あら、悠斗くん」と柔らかな微笑みを向けてくれる。その瞬間、背筋がピンと伸び、心臓が跳ねるような感覚に襲われた。自然と緊張が走り、普段の自分じゃないみたいに感じる。
「いつもこの子はよく働いてくれるんですよ」とばあちゃんが俺を紹介すると、彼女はさらに微笑んで「それは素晴らしいわね、悠斗くん」と言ってくれた。その優しい声に、俺の胸は一気に高鳴り、「もっと頑張らなきゃ」と思わず心の中で決意を新たにする。
さらにばあちゃんが、「ホームステイの女の子のお世話もしてくれてね」と話すと、彼女は驚いたように目を輝かせ、「ホームステイ!それは素敵ね」と興味深そうに頷いた。そのリアクションに、俺は少し誇らしい気持ちになる。
「せっかくだから紹介しては?」というばあちゃんの言葉に促され、俺はフィリアを呼びに行くことにした。掃除をしていたフィリアに合図を送ると、彼女は雑巾を置いて駆け寄ってくる。その小さな仕草にもどこか一生懸命さがにじみ出ていて、自然と微笑んでしまう。
フィリアがぺこりとお辞儀をすると、彼女は一瞬息を呑むようにフィリアを見つめた。そして、「かわいい…!まるで絵画から飛び出してきた天使のよう…!」と感嘆の声を漏らす。その言葉が止まらない。
「エメラルドグリーンの瞳に、銀色に輝く長い髪…それにぶかぶかの体操着をこんなに愛らしく着こなしているなんて!ああ、大きな麦わら帽子も夏の象徴みたいで、なんて素敵な子なの!」彼女の情熱的な称賛に、俺もばあちゃんもフィリアも、思わずポカンとしてしまう。
普段は落ち着き払っている彼女がこんな風に感情を爆発させるのは珍しく、そのギャップに驚きつつも、どこか微笑ましい気持ちになった。
フィリアは恥ずかしそうに少し顔を赤らめ、「ふぃ、フィリアです。よろしくお願いします…」と控えめに頭を下げる。その初々しい仕草に、彼女の目はさらに輝き、感動が溢れているようだった。その様子を見ていると、俺の胸もじんわりと温かくなり、不思議な安心感に包まれる。
「し、失礼しました…」と彼女が軽く咳払いをして我に返ると、すぐにいつもの落ち着きと知性を取り戻して、ばあちゃんと銭湯の経営について話を再開した。その様子を眺めながら、俺はさっきの感情をむしろ噛み締めていた。普段はどっしりと構えている彼女が、フィリアを見てあんなに感情を表に出すなんて…。それがやけに印象に残っていて、どうにも気持ちがそわそわする。
「営業時間が短くなっている今だからこそ、売上を少しでも上げられるようなアイデアがあればいいですね。」彼女の声は静かで柔らかいけれど、言葉の端々に鋭い視点が滲んでいる。その落ち着いた口調に、つい俺は思わず聞いてみた。
「売上を上げるって…お客さんを増やせばいいんですか?」
振り返った彼女が、柔らかく微笑みながら答えてくれる。「もちろん、それも大切な方法の一つ。でも、今来てくださっているお客様に新しい商品やサービスを提供するのも良い手段よ。」
彼女の説明を聞きながら、その言葉が胸にじんわり染み込んでいくのを感じた。こういう大人な考え方って、俺にはまだピンと来ない部分もあるけど、でも、なんだか新しい世界を見せられた気がして、思わず口が動いていた。
「それなら…自分もアイデアを考えてみるので、そ、相談に乗ってもらえませんか?」
言い出した途端、心臓がドクンと跳ねたのが自分でもわかった。突然のお願いに、彼女がどう反応するのか怖かったけれど、彼女は全く嫌な顔をせず、優しい眼差しを向けてくれた。そして、穏やかに頷くと「もちろん。どんなアイデアでも相談してね」と答えてくれた。その瞬間、体の中に広がる安堵と喜びを抑えるのに必死だった。
さらに勇気を振り絞り、俺は続ける。「今月は夏休みで、ずっと銭湯にいる予定なので…月の中頃にでも、もう一度アドバイスをいただけたらと…」
彼女は手帳を取り出し、日付を確認しながらしばらく考え込む。そして顔を上げ、「月の中頃ね…お盆明けは水曜日だけど、この銭湯は定休日だから、その次の日、18日の木曜日のお昼過ぎに伺うわね」と微笑む。
その言葉を聞いた瞬間、俺は心の中で思わず小さくガッツポーズを決めた。もちろん表には出さないよう必死で冷静を装ったけど、内心では喜びが止まらなかった。
すると、その会話を聞いていたフィリアが勢いよく顔を上げて、「私も、が、頑張りますわ!」と真剣な表情で意気込む。彼女はそんなフィリアに優しい眼差しを向けて、「頼もしいわね、フィリアちゃん。新しい視点ってビジネスにはとても重要なの。二人で力を合わせて、きっと素敵なアイデアを作り出してね」と静かに言葉を添えた。
彼女が銭湯を後にする後ろ姿を見送りながら、俺の胸にはじんわりとした温かい充実感が広がっていった。隣にいるフィリアと目が合い、自然と二人で小さく笑い合う。その瞬間、心の中で新しい決意が芽生えた。
(この銭湯のために、そして…何よりも彼女に胸を張って報告するために──)
彼女の言葉とその優しい微笑みを胸に刻みながら、俺は売上アップ作戦に本気で取り組むことを心に誓った。
この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。
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