(110)エルフと装束
目覚めると、雨音は止んでいた。時計の針は気付けば四時を指している。部屋の薄暗い光の中、横ではパジャマ姿のフィリアがむにゃむにゃと寝返りを打っていた。
お風呂に長く入りすぎたせいで、すっかり寝てしまったな…。俺は軽く頭をかきながら彼女の寝顔を眺める。柔らかい銀髪が枕に広がり、穏やかな表情を浮かべる彼女。こんな姿も、これで最後になるのかと思うと、胸が少しだけ締めつけられる。
今夜、彼女はマナ?とやらを使って自分が来た世界に帰るらしい。その話を聞いた時の不安そうな表情や、初めてここに倒れ込んできた彼女の姿を思い出す。そっとその場を離れて寝室を出た。
フィリアのために、最後の料理を作ろうと思う。たくさん寝た後だし、きっとお腹が空いているだろうけど、これからの大仕事に向けて体に負担をかけないものがいいはずだ。
おかゆ…シンプルだけど、温かさと思いやりを詰め込める料理だ。けれど、そのままじゃ寂しいから、少し工夫してトッピングを添えることにした。
梅干し、ばあちゃんが用意してくれた塩漬けのゆで卵、味噌、それから刻んだ高菜。赤、黄、緑とカラフルに彩ったおかゆが完成すると、これなら送り出しにもぴったりだな、と微笑みがこぼれる。
「フィリアを起こさなくちゃな…」
寝室に戻り、彼女を軽く揺り起こすと、ゆっくりと目を開けたフィリアが「あら、もう時間ですの?」と少し眠たそうに呟いた。
「いや、まだ時間はあるけど、少し腹ごしらえしようかと思ってさ。おかゆ作ったんだ。」
彼女は嬉しそうに微笑み、パジャマ姿のままテーブルに座ると、色とりどりのトッピングを見て目を輝かせた。
「美味しいですわ…見ているだけでも楽しいですわ…」
その幸せそうな表情を見て、俺は少しだけ胸が温かくなる。この光景も最後なんだな、と思うとやっぱり寂しいけれど、彼女の笑顔がそれを紛らわせてくれる。
フィリアはおかゆを一口ずつ味わいながら食べ進め、最後には小さく「ごちそうさまでした」と満足そうに手を合わせた。
「装束に着替えて参りますわ。少し大きいですが、向こうに着くとマナが満ち溢れてきっと体も元に戻るかと思いますので。その時に小さな服では破けてしまいますから。」
彼女はクスッと笑う。その笑顔を見ながら、俺はそういえばフィリアがこちらに来た時、体が小さくなっていた理由を聞いたことを思い出した。マナが失われた影響だとか。本当は俺より年上なんだろうけど、どこかその仕草や表情が幼くて、年上には全く見えない。
「着替え終わりましたら、台風が来る前に並べておいたマナを込めた石の召喚魔法陣を最終確認いたしますわ。そして、満月の月が見え始めましたら、魔法を発動いたしますわ。」
「うん、わかった。まだ時間があるから、ゆっくりしようか。」
フィリアは小さく頷き、微笑んだ。その姿を見て、少しでも彼女との残された時間を大切にしよう、と心に決めた。
この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。
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