(106)エルフとサプライズ
午後、準備が本格的に始まった頃、銭湯の湯上がりスペースは一気に活気づいた。「さあさあ、今日はフィリアちゃんが主役だからね!急いで飾り付けを済ませよう!」とばあちゃんが仕切り、常連のおばあちゃんたちが次々と手作りの飾りや料理を持ち寄ってくれる。
「このテーブル、もっと真ん中に置いたほうがいいんじゃないか?」
「いやいや、フィリアちゃんの座る場所はもっと目立たせるべきだ!」
お兄さんたちが湯上がりスペースを模様替えしながら、楽しそうに意見を交わしている。その姿を見ながら、俺もつい笑みがこぼれた。台風が迫る中でも、みんなが一丸となって準備を進めてくれるこの光景が、なんだか温かかった。
夕方、準備が整ったタイミングで、俺はフィリアを起こしに行った。ドアを軽くノックすると、少し寝ぼけた様子の彼女が顔を出す。髪が少し乱れたその姿がどこか無防備で、俺は不意に視線をそらしてしまった。
「ユウトさん…どうされましたの?」
フィリアの声はまだ眠気を引きずったままで、その柔らかな響きが耳に心地よい。
「いいから、来てみて。」
俺は余計なことは言わず、彼女を促して湯上がりスペースへと向かう。そしてその扉を開けた瞬間、色とりどりの飾り付けや料理、そして笑顔で待ち構えているたくさんの人々が目に飛び込んだ。
「フィリアちゃん、今日は君が主役だよ!」
ばあちゃんの明るい声に続き、みんなが一斉に拍手を送る。その音に包まれたフィリアは驚きで目を見開き、小さな声で「え…これは…?」と呟いた。
「フィリアちゃん、いつもありがとう!これは私たちからのささやかな感謝の気持ちだよ。」
おばあちゃんたちが優しく声をかけると、フィリアは目に涙を浮かべ、深々と頭を下げた。その姿に、胸がぎゅっと締め付けられる。
会の内容は、フィリアらしい温かい雰囲気に満ちていた。
テーブルには手作りのおはぎや寒天ゼリー、涼しげなフルーツポンチが並び、フィリアが「どれもとても美味しいですわ…!」と感激しながら食べるたびに、周囲から笑顔がこぼれる。
お兄さんたちが腕相撲大会を始め、「優勝者はフィリアちゃんに一言お礼を言える権利!」というルールを提案して場を盛り上げた。優勝者が真っ赤な顔で「これからも元気で!」と声を絞り出すと、みんなが笑いに包まれた。
最後にばあちゃんが一冊のノートを手渡した。「これはね、みんなからのメッセージノートだよ。フィリアちゃんがどこにいても、日本のことを思い出せるようにね。」
その言葉を聞いたフィリアはノートを抱きしめ、涙をこぼしながら「本当に…ありがとうございます」と小さな声で感謝を伝えた。
会が終わり、みんなが笑顔で帰っていく中、俺はふとフィリアの横顔を見つめていた。飾り付けが揺れる湯上がりスペースの中、彼女の笑顔がどこか切なく映る。
「ユウトさん…本当に素敵な時間を過ごせましたわ。」
彼女がそう静かに呟く。俺は軽く笑いながら「それはよかった。」と返したものの、その言葉の裏で、胸の奥に押し寄せる寂しさを隠しきれなかった。
(こんなに笑ってくれてるのに、もうお別れなんだよな…。)
彼女の笑顔を見ていると、別れが迫っているという事実が胸に刺さる。俺はどうしようもない感情を抱えたまま、フィリアの笑顔を目に焼き付けていた。
この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。
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