(105)エルフと大掃除
フィリアが帰るまで、あと1日。火曜日の朝。
「フィリア、ちょっと早いけど起きてくれ!」
外はまだ薄暗い静寂の中、俺はフィリアの部屋の前で小声で呼びかけた。ドアがゆっくりと開き、ふわふわと寝癖のついた銀髪が現れる。寝ぼけ眼のフィリアの姿に、思わず笑いをこらえる。
「ユウトさん…まだこんなに早い時間ですのに、何かあったのですか?」
目をこすりながら尋ねてくる彼女の声は少し鼻にかかったような甘い響きで、なんだか心が和んだ。
「台風が来てるだろ?もう今日は営業しないし、折角だから銭湯を大掃除しておこうと思ってさ。掃除しておけば気持ちもスッキリするだろ?」
そう言うと、フィリアの表情が一瞬きょとんとする。そしてすぐに、いつものキラキラした目で「分かりました!お手伝いしますわ!」と元気よく答えてくれる。
その純粋な反応に、俺は内心でガッツポーズを決めた。よし、作戦開始だ。
掃除道具を一式揃え、銭湯の隅々まで二人で大掃除を始める。「ここもきれいにするんだよ。」俺が指差すたび、フィリアは真剣そのものの表情で頷き、一生懸命雑巾を動かしてくれる。その姿を横目で見ながら、俺は声をかけた。
「もっとゆっくりやっていいんだぞ?」
けれども、彼女は軽く首を振って「ユウトさんのお役に立ちたいですから!」と微笑みながら、負けん気を見せて黙々と作業を続ける。
「ユウトさん、ここはどうですか?」
ピカピカになった床を見せながら振り返るフィリア。その頬には汗が光り、額の髪が少しだけ乱れている。その一生懸命さに、俺は思わず胸がきゅっと締め付けられた。
「バッチリだよ!さすがフィリア!」
親指を立ててみせると、彼女は少し照れくさそうに微笑む。その仕草があまりにも可愛らしくて、俺は思わず目をそらしてしまった。
掃除を終える頃には、フィリアはさすがに疲れたようで、雑巾を絞る手も少し震えていた。それでも「大掃除…大変でしたけれど、楽しかったですわ…」と小さな声で呟く。
「そろそろ休憩しよう。疲れただろ?お昼寝でもしておけばいいよ。」
そう提案すると、フィリアは少し迷った様子だったが、やがて「では、少しだけ…」と頷き、部屋に向かってふらふらと歩いていった。その背中を見届けた瞬間、俺はガッツポーズを決めた。
「よし、計画通りだな!」
急いでばあちゃんのところへ向かい、そう報告すると、ばあちゃんも満足そうに頷いて笑う。
「じゃあ、みんなを呼んでくるよ。」
そう言いながら、常連のおばあちゃん友達や、噂を聞きつけた近所のお兄さんたちに連絡を取り始めるばあちゃんの姿を見て、俺は心の中で勝利を確信した。
(さあ、次の準備を進めよう――これも全部、フィリアのためだ。)
この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。
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