(104)エルフと雨風
サプライズの準備を進めている最中、頭の片隅から離れなかったのはフィリアの魔法陣のことだった。召喚のために石に込めたマナは無事に準備できているのだろうか。この台風の中で本当に問題なく進められるのか、不安が胸をよぎる。考えあぐねた末、俺はフィリアに直接聞くことにした。
「フィリア、あのさ…魔法陣の石にマナを込める準備って、もう終わってるの?」
フィリアは穏やかに微笑みながら頷く。「はい、ユウトさん。マナはすでに石に込め終わっていますわ。ただ、この雨と風で石を並べた魔法陣が崩れているかもしれません。でも、ご安心ください。魔法陣の形はしっかり覚えておりますので、崩れていてもすぐに組み直せます。」
その言葉を聞いて少し安心したものの、台風の強風と雨の中で本当に発動できるのか疑問は拭えない。俺はさらに踏み込んで尋ねた。「でもさ…魔法には満月の力が必要って言ってたけど、この嵐でもちゃんと発動できるのか?」
フィリアは一瞬考えるように視線を下げたが、すぐにいつもの穏やかな表情に戻り、真剣な口調で答えた。「雨風が強くても問題ありませんわ。満月は、たとえ雲で覆われていても、その上で煌々と輝いております。その力を借りることができますの。」
たしかに、どこかで「雲の上はいつも晴れ」と聞いたことがある。俺たちには真っ黒な雲しか見えていなくても、その上には黄金色の月がちゃんと待っているんだ。
「もちろん、満月を直接浴びた方が効率的ではありますが、今回の準備では十分なマナを込めておりますので、見えていなくても発動には支障ありません。」
その説明を聞き、ようやく胸を撫で下ろす。「そっか、それなら安心だな。」
しかし、フィリアの表情が少し曇る。「た、ただ…この雨と風の中で召喚魔法を発動すると、またこちらに来た時のように濡れてしまうかもしれません…。」
その一言で、一ヶ月前の記憶が不意に蘇った。雨に濡れた白い装束が彼女の身体に張り付き、透けてしまったあの光景――。
待て、やめろ!今はそんな記憶を引っ張り出している場合じゃない!
頭の中で自分に喝を入れるが、一度浮かんだ映像はしつこく消えない。
(家の中に魔法陣を組めたりしないのか?雨風を避けられれば、もっとやりやすいんじゃないか?)と考えてみたものの、この暴風雨の中で一つ一つの石を運ぶのは現実的ではない。それに、ばあちゃんに見られてしまったらどう説明するのか、まったく思いつかない。
腹を括るしかなかった。「…やっぱり、雨風の中でやるしかないんだな。」
フィリアが心配そうな目をしているのを見て、俺は意を決して声を張った。「お、俺が傘を持って守るよ!フィリアが安心して帰れるように、俺が全力で手伝う!」
フィリアは目を見開き、少し頬を赤らめながら微笑んだ。「あ、ありがとうございます、ユウトさん。本当に…最後までご迷惑をおかけしますわ。」
「全然そんなことない!」と俺は胸を張る。
その瞬間、胸の中にどこかヒーロー気分が湧き上がるのを感じた。ヒロインを守るために全力を尽くす――まるでドラマの主人公みたいなシチュエーションに、ほんの少しだけ誇らしい気持ちになる自分がいた。
(最後まで、フィリアのために全力を尽くすんだ。)
湧き上がる熱い思いを胸に抱きながら、俺は再び準備に取り掛かるため立ち上がった。外では雨風の音が激しく鳴り響いている。それでも、不思議と心の中は静かで、ただ目の前のやるべきことに向き合う決意が固まっていた。
この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。
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