(102)エルフと企画
カナとの通話を終え、胸の中に微妙な重さを抱えつつ、銭湯の様子を確認しようと動き始めた。その時、家と銭湯を繋ぐ通路の先で、ばあちゃんが手招きしているのが見えた。表情には何か含みのある笑みが浮かんでいて、俺は一瞬警戒しつつ足を速めた。
「フィリアちゃん、明後日の水曜日に帰るんだよね?」
ばあちゃんが声を潜めて切り出す。その一言で、ただの雑談ではないことを直感した。
「そうだけど…それがどうかしたの?」
俺が答えると、ばあちゃんは悪戯っぽい笑みを浮かべながら続けた。
「だからね、ささやかだけどお別れ会を開こうと思ってるの。悠斗は何も準備してないでしょう?」
図星だった。フィリアが帰る寂しさは感じていたけれど、具体的に何かをしようなんて考えていなかった。
「…まあ、準備どころか、そんなこと思いつきもしなかったよ。」
苦笑いしながら答える俺に、ばあちゃんはさらに畳みかけるように話を続ける。
「フィリアちゃんが番台に立つようになってから、常連さんたちが『いつまでいるの?』って何度も聞いてきたのよ。それでね、お別れ会をしたらみんな喜ぶんじゃないかと思ったの。」
確かに、フィリアは短い間で銭湯のアイドルになっていた。番台に座れば客足が増えるし、常連のおばあちゃんたちや、屈強なお兄さんたちまで虜にしてしまうほどだ。ファンクラブができるなんて普通じゃあり得ない。そんな彼女を何もせずに見送るのは、確かに味気ないし、応援してくれたみんなに申し訳ない。
「でもさ、どうやってみんなに連絡するんだ?」
俺が尋ねると、ばあちゃんはにっこり笑った。
「台風が近づいてるから、来られる人だけでいいのよ。銭湯のホームページに『フィリアちゃんのお別れ会やります。準備も手伝ってくれる人はぜひ、ご連絡ください』って案内を載せておけば、それで十分。台風の営業状況が気になってホームページを見てくれる人も多いだろうし、常連さんたちが口コミで広げてくれるわ。」
なるほど。ばあちゃんの発想と行動力にはいつもながら感心する。「それならうまくいきそうだね。」と俺も頷いた。
けれど、もう一つ大きな問題が残っていた。
「でもさ、フィリアにバレずに準備するのって難しくない?」
俺がそう尋ねると、ばあちゃんは肩をすくめて笑った。
「そこは悠斗がなんとかするしかないねえ。」
軽い調子の返事に、思わずため息をつきながら頭を掻いた。それでも話し合いの結果、朝から「銭湯の大掃除」を口実にしてフィリアを巻き込み、彼女を疲れさせて昼寝させる。その間に準備を進めるという作戦が決まった。
「掃除で疲れさせて昼寝してもらう…なんか作戦というより罪悪感しかないけど…。」
小声でぼやきながらも、計画実行を決めるしかなかった。
「さあ、明日は一日がかりだな。」
俺が呟くと、ばあちゃんは満足げに頷き、「じゃあ、私も常連さんたちに連絡しておくよ。」と言い残し、早速動き出した。
頼もしいその背中を見送りながら、俺は心の中で強く決意する。
(フィリアにとって、絶対に忘れられない特別な日になるように…全力でやるしかない。)
湧き上がる緊張感と少しの興奮を胸に抱きながら、俺は準備に取り掛かった。
この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。
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