(100)エルフと挨拶
フィリアが帰るまで、あと2日。
朝ごはんを食べ終わった後も、台風の雨風はさらに勢いを増していた。そんな中、フィリアがぽつりと呟いた。
「そういえば、大丈夫といえば…カナさんも大丈夫でしょうか?」
突然の問いに少し驚きながらも答える。
「え?カナがどうかしたの?」
「花火大会の夜、あまり元気がなさそうでしたわ。少し心配で…」
フィリアは心配そうに眉を寄せ、真剣な眼差しを俺に向ける。その瞳の中に浮かぶ優しさが、胸の奥をチクリと刺した。
思い浮かぶのは、あの夜の夏菜の姿。そして、あの言葉。
「アタシのこと、どう思ってんのか聞かせてよ!」
その問いがずっと胸に引っかかったままだというのに、俺はどう動けばいいのか分からず、時間だけが過ぎてしまっていた。
フィリアは俺の表情をじっと見つめながら、小さな声で続ける。
「やっぱりあの夜のカナさんは、どこか悲しそうでしたわ。」
「…そうだな。」
胸の奥がぎゅっと締め付けられる。夏菜が元気を失っている理由は、きっと俺のせいだ。それは分かっている。それなのに、どうしても動けない自分がもどかしい。
「でも…どう話せばいいのか分からないんだよ。」
弱音が口をついて出た。そんな俺を見つめるフィリアがふっと微笑む。その笑顔には、不思議な安心感があった。
「では、何か理由を作って、自然にお話しすれば良いのではありませんか?」
「理由?」
「例えば…そうですわね。私がお別れの挨拶をしたいからと、カナさんに電話をするというのはどうでしょうか?」
その提案に、俺は目を見開いた。確かにそれなら自然だ。フィリアも夏菜に感謝の気持ちを伝えたいだろうし、俺が余計な言い訳を考えずに済む。
「それ、いいかもな。台風で直接会いに行けないし、スマホ越しなら安全だし。」
俺は頷きながらスマホを手に取った。
「ありがとうございますわ。カナさんに、しっかりとお礼が言えるのが嬉しいです。」
フィリアは小さな笑顔を見せる。その笑顔を見ていると、少しずつ勇気が湧いてくるのを感じた。
「じゃあ、まずどうやって話を切り出すか、一緒に練習しようか?」
そう提案すると、フィリアは真剣な表情で頷いた。
「ぜひお願いしますわ。ユウトさんのお力を借りられるなら、安心ですもの。」
俺たちはフィリアのお別れ挨拶の練習をし始めた。フィリアの言葉遣いは少し堅いけれど、一生懸命な姿に自然と笑みがこぼれる。彼女の可愛らしさに、妙に肩の力が抜けた気がした。
「よし、準備万端だな。じゃあ、かけてみるぞ。」
緊張で少し汗ばんだ手でスマホを操作し、夏菜の名前をタップする。
「ユウトさん、ありがとうございますわ。」
フィリアが小さな声で感謝を伝える。その声に背中を押されるような気がして、俺は深呼吸を一つ。意を決して通話ボタンを押した。
着信音が部屋に静かに響く。その間、部屋の空気はピンと張り詰め、フィリアが緊張した面持ちで俺を見つめているのが視界に入る。胸の鼓動が着信音よりも大きく感じられる。
「…出るかな?」
その呟きは、自分に言い聞かせるようなものだった。果たして、夏菜はどう答えるのだろう。そして、俺はどう伝えればいいのか――。着信音が鳴り続ける中、心臓の高鳴りが止まらないまま、スマホをじっと見つめていた。
この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。
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