第99話 赤き闇の白いお仕事
「改めて、この間もありがとな、ミハエル」
「お礼なら前にも聞いたし、何度も言わなくていいよ、アーク」
ここはこの王都で間違いなく一番カッコイイ場所である紅き闇の館。そこで、おれはこの王都で間違いなく一番イケメンであろうミハエルと話をしていた。
「いやでも、せっかく二つ目の盟約の指輪ができたのに、またおれが貰っちゃったからさあ」
「そうやって、誰かを守るのがあの指輪の役割だからね。だから、そうして使ってくれれば、むしろ製作者冥利に尽きるよ」
そう言って、ミハエルは白い歯を見せながらニカッと笑った。相変わらずのイケメンスマイルである。
「しかし、大変だったね。誘拐事件に続いて、脅迫事件とは……」
「ああ。まさか、あれからたった一ヵ月でまたあんな事件が起きるとはなあ……。まあ、今回も無事に解決したから、もういいけどさ」
「大変と言えば、お金のこともそうだよね。一つ目の盟約の指輪分の仕事が終わったところで、今度は二つ目だから。アークさえ良ければ、今回こそ代金は無料でいいよ。見事に事件を解決したアークには、それくらいの権利はあるし」
「……いや、気持ちは嬉しいんだが、ちゃんと代金分の仕事はするよ。……ただ、それはそれとして、お金が欲しいのは事実なんだよなあ……」
「なにかあったのかい?」
「……あー、なんというか、何度も行きたくなるようなお店が二軒ほどあってな」
理由が理由なこともあり、おれはつい言葉を濁してそう答える。だが、ミハエルはおれが美少女を大好きなことは知っているし、さっきの言葉だけでどういうお店なのかを察したかもしれない。
というか、ミハエルなら「最初にリンゴが三個あります……。あと二個リンゴを買ったらいくつになるでしょう?」と女性に問われたら、三個のリンゴをどこで買ったか聞き、残り二個のリンゴを一緒に買いに行くレベルの察し力を持っていても不思議ではない。
そして、そんな察し力もイケメンなこの男は気遣い力もイケメンであり、おれが先ほど言葉を濁したことも気にせずに会話を続けてくれる。
「お金が必要なら、学生らしくバイトをするのがいいんじゃないかな」
「やっぱりそうだよなあ……。なにかおれに合いそうなバイトって知ってるか?」
「ハハッ、なにを言っているんだい、アーク。今、していることこそキミにふさわしい仕事じゃないか」
二つ目の盟約の指輪分の代金のためにやっていた、魔石に魔力を込める仕事を指さしながらミハエルがそう言った。
「あー、そういえばこれも仕事なんだよな。お前と普通に楽しく話しながらやってたからすっかり忘れてたぜ」
「それで、どうする? 最初にその仕事をしてもらったときにも言ったけど、キミさえ良ければバイトとして働いてくれていいよ。そのほうがボクも嬉しいしね」
「確かに、お前と仕事ができればおれとしても楽しいな。じゃあ、労働条件とか訊いてもいいか?」
「労働条件か。そうだなあ……」
ミハエルはあごに手をあてて少し考えた後、口を開く。
「まず、時給はこのあたりのバイトの相場より高くしよう。次に、勤務日だけど週に二~三回来てくれれば大丈夫かな」
なにやら、かなりの好条件を提示された。この仕事でこの条件だと、とてもじゃないが、「労働はクソということです」という言葉は出てきそうにない。
「ちなみに、残業とかは?」
「キミの自由にしてくれていいよ。早く帰りたいなら定時であがっていいし、お金を多く稼ぎたいならその分残業してもいい」
残業について確認するとさらなる好条件を出してくれた。この条件だと間違っても、「残業なんて、クソだ!!」という言葉は出てこない。なんというホワイトバイトなんだ。店名は紅き闇の館なのに。
「それなら、喜んでバイトさせてもらうよ。ただ、今やってる二つ目の盟約の指輪分の仕事が終わってからだけど」
「まあ、それも今月中に終わるだろうし、バイトは来月からだね」
「ああ、そうだな。さすがに、三つ目の盟約の指輪が必要になる機会はないだろうし」
なんか、今のおれの発言でフラグが立った気がするけど気のせいだろう。立つのは、おれの人生のメインヒロイン達とのフラグだけにして欲しい。