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第96話 していないお仕事

 サフィアのバイト先を訪れてから数日後。


「そういえば、アイシス先輩ってバイトとかしてるんですか?」


「いや、していないよ」


 生徒会での仕事中に試しに訊いてみたが、やはり公爵令嬢であるアイシス先輩はバイトをしていないのか。もしかしたら、この数日の流れにのってアイシス先輩の可愛い姿も見れるかと期待したが、残念ながらそうはならなそうだ。


「そうなると、貴族だし他の人達もしてないんですか?」


「ああ、今の生徒会でバイトをしている者はいないはずだ。そうだよな、シェーナ君?」


「はい、その通りです、会長」


 アイシス先輩の問いにシェーナ先輩が予想通りの答えを返してきた。まあ、みんな貴族で色々忙しいんだろうし、立場上バイトをするようなこともないのが普通か。そう考えているおれに対し、アイシス先輩が問いを発した。


「それよりも、気になることがあるんだがいいか?」


「なんですか?」


「もしかして、君は体調が悪いのではないか? 顔が赤いぞ」


「……あー、そう言われると、なんか熱いような気が」


「そうか。では、少し失礼する」


 そう言って、アイシス先輩は右手をおれのおでこに当てて熱を測り始めた。アイシス先輩のような美少女に急にそんなことをされると、熱がなくても熱が出てしまう気がするんですが。


「……やはり、熱があるようだな。おそらく、風邪だろう。今日の仕事はいいからすぐに帰って身体を休めてくれ」


「……分かりました。ありがとうございま――」


「会長、待ってください!」


 おれがアイシス先輩にお礼を言って帰ろうとすると、それをシェーナ先輩が引き留めた。


「どうした?」


「体調が悪い方を一人で帰らせるのも危ないですし、まずは応接室で少し休んでもらい看病したほうがよろしいのでは?」


「……ふむ、確かにそうだな。今日は私とシェーナ君しかいないし、ここは日頃バーンズアークに仕事を手伝ってもらっている私が一肌脱ぐとしよう」


 アイシス先輩が一肌脱ぐとか言うと、健全な男子であるおれはついつい変な想像をしてしまう。しかし、女子であるシェーナ先輩も、なぜかその言葉を聞いて目を輝かせていた。


「さて、まずはバーンズアークを応接室まで運ぶか」


「いえ、さすがに一人で歩けるので大丈夫ですよ」


「遠慮しなくていいよ。君は強いが、体調が悪いときくらいは素直に人に頼るといい」


「……じゃあ、すいませんがお願いします」


 せっかくの厚意を無下にするのも悪いかと思い、そうお願いする。すると、アイシス先輩はおれのことをお姫様だっこで抱きかかえた。……なんかおれのことを軽々と持ち上げたけど、ゴリラの神から加護された令嬢じゃあるまいし、きっと身体強化を発動しているんだろう。


 ……あとこれ、アイシス先輩の胸が大きいせいもあって、おもいきりおれの身体に当たってるんだけど。女の子にお姫様だっこされるとか恥ずかしいんだが、こんな役得があるならむしろラッキーだな。


 その後、シェーナ先輩がドアを開けてくれたので、おれは無事に応接室へと運ばれる。応接室にあるソファーは人が一人横になれるくらいの大きさはあったので、おれはそこに寝かされた。


「それでは、会長。バーンズアークさんの看病をするのに良い物があるので、一度生徒会室に戻ってもらえますか」


「そうか。そんな準備があるとはさすがだな、シェーナ君。では、すまないが少しだけ失礼するよ」


「はい、おれは大丈夫です」


 アイシス先輩の言う通り、さすがは聡明なシェーナ先輩だ。なにが準備してあったかは分からないが、もしかして貴族御用達の薬とかかもしれないな。その後、思っていた以上に時間が経過してアイシス先輩達が戻ってきた。


「……す、すまない。待たせたな……」


「いえ、全然平気です」


 そう答えながら、おれはアイシス先輩のほうを見る。すると、そこにはナース服を着たアイシス先輩がいるように見えた。……熱のせいで幻覚でも見てるのかな? おれは目をゴシゴシしてからもう一度アイシス先輩を見るが、やはりナース服を着ていた。


「……あの、アイシス先輩、その恰好は?」


「君を看病するならこの恰好が良いとシェーナ君に薦められてな」


「わたくしが今読んでいる小説にそういうシーンがありましたので間違いありません。これでバーンズアークさんもすぐに良くなりますよ」


 なるほど、そういうことか。聡明なシェーナ先輩が言うならきっと正しいんだろう。疑問が解決したところで、おれは改めてアイシス先輩のナース姿を見る。


 白を基調としたオーソドックスなナース服で頭にも白い帽子。下のほうはというと、スカート丈は短めで靴下も同様のため、きれいな白い脚がスラッと伸びている。そして、特筆すべきはやはり胸であり、服の上からでも存在感を大きく主張していた。


「よく似合っててきれいですよ、アイシス先輩」


「そ、そうか、ありがとう……」


 アイシス先輩は頬を赤くしてもじもじしながらお礼を言った。普段は絶対にしないような格好だから、やはり恥ずかしいのだろう。先ほど、一肌脱ぐと言っていたが、文字通りおれのために一肌脱いでくれたようだ。


 さて、シェーナ先輩のおかげで、おれは美人ナースさんに看病してもらえるようだな。さすがは、聡明なシェーナ先輩だ。


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