第93話 言いたくないお仕事
リミアがバイトを始めることになってから数日後。
「そういえば、サフィアはバイトしてるのか?」
「バイトなら少し前に始めたわよ」
ふと気になったので本人に訊いてみると、そんな答えが返ってきた。
「そうなのか。どういうバイトなんだ?」
「……教えない」
「え、なんでだよ?」
「別にいいでしょ」
サフィアは失敗したとでも言いたげな顔をしていた。ついうっかり、バイトをしていると答えてしまったが、その内容については言いたくないらしい。そんなサフィアがビシッとおれを指さしながら釘をさすかのように口を開いた。
「言っとくけど、あたしのあとをつけてバイト先に来たりとかしないでよね!」
「……ああ、分かった。そんなことはしない、約束する」
こうまで言ってくるとますます気になるな。それに、先日リミアのバイト先がいかがわしいお店なのではと不安になったことがあったが、こうなると今度はサフィアのことが心配になってきた。
まあ、王都という名の都会で育ったサフィアなら、田舎育ちのリミアのように知識が浅く警戒心が薄いということはないだろう。だが、まだ年齢的には子どもだし、悪い大人にうっかり騙されて変なお店で働かされているという可能性もないとは言えない。
であるならば、やはりサフィアのバイト先がどんなところなのかを確認する必要があるだろう。現状のおれはバイトとかの仕事はしてないが、自分の人生のメインヒロインを守るのは当然おれの仕事であり責務だからな。おれはおれの責務を全うする!!
*****
数日後、おれはサフィアがバイトをしていると思われるお店の前に立っていた。もちろん、サフィアに約束したように彼女のあとをつけてここにたどり着いたわけではない。
……ふむ、ちょうどサフィアはお店に入ってすぐのところにいるようだし、おれも入るとするか。そう思い、おれがお店のドアを開けると、聞き慣れた声の美少女が見慣れない格好で挨拶してきた。
「お帰りなさいませ、ご主人……様……」
入ってきた客でありご主人様がおれだったことに気付いたサフィアは言葉に詰まる。さらに、驚きから硬直した身体とは対照的に、顔のほうは次第に赤く染まっていった。そして、顔が完全に赤く染まったサフィアが声を荒げ始める。
「な、なんであなたがここにいるのよ!」
「なんでって言われても、気になったお店に入っただけだけど」
「そんなことあるはずないわ! 絶対にあたしのことをつけてきたでしょ!」
「いや待て。おれは絶対にそんなことをしてないぞ」
「嘘よ! 偶然このお店に来るなんてあるわけないでしょ!」
「いや、本当にしてないから。ただ、魔力感知でサフィアがどこにいるかを探して、このお店にいることが分かっただけだから」
「それ、あとをつけるのと大して変わらないじゃない!」
怒りからか、すでに赤かった顔をさらに赤くしてサフィアが怒鳴った。まあ、そう言われればそうと言えなくもない。とりあえず、これ以上怒らせるのも悪いので、さっさと弁明しておこう。
「悪かったよ。けど、お前のことが心配でさ」
「心配……?」
「そうだ。お前が変なお店で働かさせられたりしてるんじゃないか心配でさ」
「そう……。まあ、そういうことならいいけど……」
おれの弁明にサフィアは態度を一変させ、手を合わせてもじもじさせながらそう言った。なんなら、嬉しそうに見えるくらいなので、おれの心配は思っていた以上に効果があったようだ。
「それで、なんでおれにこのバイト先のことを隠そうと思ったんだ? 別に、変なお店ってわけでもないんだろう?」
「それはだって、変ではないけど変わったお店だから恥ずかしくて……。ほら、制服だってこんなだし……」
そう言われ、おれはサフィアの姿を確認する。
最初の挨拶からも分かるようにメイドさんであり頭には白いカチューシャ。白と黒を基調とし、全体的にひらひらとしたメイド服でスカートはみじかめ。そして、脚にはニーハイソックスをはいており、スカートの間にわずかな絶対領域が存在していた。
「良い制服じゃないか。とても似合っていて可愛いぞ」
「っ! あ、ありがと……」
サフィアは再び顔を赤くしてそう答えた。しかし、あれだな。王都に来てからちゃんと師匠の教えを実践してきたおかげで、おれもわりと普通に女の子を褒められるようになってきたな。
さて、サフィアが心配だから来てみたが、このお店には男性客もいるようだな。とはいえ、リミアのバニーガール姿とは違い、露出度的には大したことはない。このくらいであれば魔法学院の制服姿と大差はないし、さすがにバイトを反対するレベルではないか。
だが、せっかくきたんだし、サフィアの可愛いメイド姿をもっと見ていっても罰は当たらないだろう。