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第92話 サービスしますからね

 このお店でのリミアのバイトに反対することは決定したが、現在の状況には問題がある。


 ただでさえ、おれはリミアみたいな美少女にはつい目を向けてしまうのに今はバニーガール姿だからな。その姿、とくに開けた胸元にはいけないと思いつつ、本能的に視線を向けてしまう。……いかんな、リミアに気付かれないように見るのはほどほどにしないと……。


「……あの、やっぱり気になりますか?」


 ……バレてた。リミアは恥ずかしそうに胸元を抑えてるし完全にバレてたよ、これ。


「ご、ごめん、つい!」


「い、いえ、こちらこそすいません。……それと、その、別に見ていても大丈夫ですよ」


「いやいや、無理しなくていいから!」


「……無理なんてしてないですよ。……だから、その、……レインさんにならこういうことをしても……平気ですし」


 そう言って、リミアはおれの右腕に抱きついてきた。そのため、リミアの柔らかい胸の感触が右腕に直に伝わってくるし、胸元がより近くに来ているしで嬉しいのだが、それゆえに落ち着かない。なにこれどういう状況なの!?


「……わたしが無理してないって分かってもらえましたか?」


「……え? あ、ああ、うん、分かった、理解した」


 リミアみたいなおとなしい女の子がここまでしてくれるんだから、その言葉に嘘はないと信じていいだろう。ただ、なぜリミアがこんなことをしてくれているかが分からない。このお店ではこういう接客をするように店長さんに教わったのだろうか?


「……あの、こうしてるとレインさんは嬉しいですか?」


「……え? あ、ああ、うん、嬉しい、すごい嬉しい」


「……じゃあ、今日はずっとこうしてますね」


 そう言って、リミアがさらに近づいてきたので胸だけでなく肩も脚も密着する。……駄目だ、こんな状況で他のことを考える余裕がおれにはない。ここはリミアの言葉に甘えて、この状況を堪能させてもらおう。


 そう思ったおれはリミアの胸元に目を向けた。というよりは、まるで重力に引き寄せられるかのように自然と目がそちらにいってしまう。やはり、大きいし柔らかいしで非常に魅力的であり、ずっとこうしていたい気分だ。


 ……いかん、こんな状況のせいかのどが渇いてきたな。いや、飲み物はあるからそれを飲めばいいだけか。そう思い、オレンジジュースを手にしたおれだが、右手がふさがっていて左手を使ったのがいけなかったのかもしれない。口元に運んだオレンジジュースを誤ってこぼしてしまった、リミアに。


「きゃ!」


「ご、ごめん!」


 バニースーツが黒色のためか服が透けるようなことはなかったが、濡れたことでよりバニーリミアのなまめかしさが増した。しかも、そのふくよかな胸の谷間にはジュースが溜まってしまっていて、見ていると変な気分になってくる。


「わたし、タオルをもらってきますね」


 立ち上がったリミアはそう言うと、店の奥へと向かっていった。だが、少し待って戻ってきたのはリミアではなく店長さんだった。


「リミアはどうしたんですかー?」


「リミアちゃんなら服を着替えてもらってるわ。それで、タオルを持ってきたんだけど……特に濡れてる場所はなさそうね」


 店長さんにそう言われ、周囲や自分の服を見てみると確かに濡れていない。どうやら、あのオレンジジュースはすべてリミアにかかってしまったらしい。悪いことをしたと思うが、着替え中の女の子がいる部屋の扉を勝手に開けて、いきなりかき氷をぶっかけるよりはマシだろう。とはいえ、ちゃんと謝らないとな。


「ジュースをこぼしてしまってすいませんでしたー」


「お店としての被害は服だけだし、それも洗濯すればいいだけだから別にいいわよ。それより、実際にお店を体験してどう? リミアちゃんが心配ってことだったけど大丈夫?」


「あー、そうですねー……」


 そうだった、あんな状況になったせいですっかり忘れてたが、当初の目的はそれだった。さて、迷惑をかけた手前、申し訳ないがここは、


「すいませんがー、リミアにはこのお店の仕事は合わないと思うんですよねー」


「あら、どうして?」


「ああいう姿で男性の接客をするのはリミアには良くないというかー」


「……え?」


 おれの言葉に店長さんは目を丸くした。おれがなにか変なことを言ったかと思ったが、店長さんは納得したかのように口を開いた。


「そっか、キミには言ってなかったのね。うちのお店はお客も女性限定だからそういう心配はないわよ」


「えっ!? そ、そうなんですかー? こういうお店って普通は男性客がメインじゃないんですかー?」


「そういうお店のが多いけどうちは違うのよ。ここは王都なだけあって色々なお店があるし人も多いから、うちみたいなお店にもちゃんと需要があるわ。カワイイ女の子とお話ししたい女性って意外といるのよ」


 なるほど、そういうことか。男性客がいないということなら、おれとしては特に反対する理由もないな。


「それならー、リミアさえ良ければ大丈夫ですー」


「そっか、良かったわ。リミアちゃんのほうも問題なさそうだったし、これでうちのお店にまたカワイイ子が増えるわね」


 店長さんはとても嬉しそうに笑いながらそう言った。もしかして、このお店が店員も客も女性限定なのはこの人の趣味なのでは? おれが訝しんでいると、着替えを終えたリミアが戻ってきた。


「あら、戻ってきたわね。じゃあ、もうしばらくはゆっくりしていっていいわよ」


 そう言って、去っていった店長さんと入れ替わるようにリミアが席に座った。


「改めて、さっきはごめんな」


「いえ、大丈夫です。それより、わたしはこのお店でバイトをしようと思うんですが、いいですか?」


「ああ、リミアさえ良ければおれは構わないけど」


「……ちなみに、レインさんはまたこのお店に来てくれますか?」


「……え?」


 そうおれに問いかけたリミアは、またおれにこのお店に来て欲しいと言っているように思える。このお店は女性限定とのことだが、おれの<変身(メルフォス)>なら今日みたいに問題なく入れるだろう。それに、こういうお店はたぶん指名制なので、来た場合はリミアを指名すればお店に迷惑もかからないはずだ。


「……そうだな。せっかくだし、また来るよ」


「ありがとうございます。それじゃあ――」


 リミアは再びおれの右腕に抱きつき、上目遣いで言葉の続きを口にした。


「そのときはいっぱいサービスしますからね」


 その言葉で、おれがこのお店の常連になることが決定したのは当然の帰結だった。


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