第09話 メインヒロインは二人いてもいい
おれ達は無事に旅を終え、王都に到着した。
「これが王都なんですね……。すごい……」
王都の中に入りその街並みを見たリミアが感嘆の声を上げた。そりゃ、ずっと田舎の村で暮らしていた子なら驚くよなあ。
王都というだけはあり、人が圧倒的に多いし、でかい建物もあったりする。日本でも、田舎から東京に出てきた人だったら似たような反応をするだろう。
「感動しているところ悪いんだが、とりあえず宿屋を確保しよう。明日は入学試験だし、今日は早めに宿でゆっくり休んだほうがいい」
「あ、そうですね」
というわけで、おれ達は宿屋に向かって歩き始める。と言っても、宿屋の場所を知らないので、探していると言うほうが正確だな。
おれは王都には何度も来たことがあるが、宿屋に泊まる必要性がなかったから場所を把握していなかったことに今になって気付いた。
そのため、二人できょろきょろと宿屋を探しながら歩いていると、リミアが誰かにぶつかってしまった。
「きゃっ。す、すいません」
「あら、別に痛くもなかったし大丈夫よ」
リミアがぶつかってしまった相手はそのことを特に気にしていないようだった。
「それより、どうかしたの? 周りを見回していたみたいけど、なにか探し物かしら?」
「あ、実は宿屋を探してまして……」
会話が始まったので、おれはリミアがぶつかってしまった相手のほうを見る。
……え、なにこの女の子、すっごい可愛い! アニメや漫画で言えば確実にメインヒロインになる美少女だよ!
しかも、すごいのはその非常に整った顔立ちだけじゃない。赤色の髪はとてもきれいだし、その髪をツインテールにしていて大変可愛らしい。
そして、スタイルのほうはと言うと、しまるところはしまってるし、女性特有のとある膨らみも慎ましかった。いわゆるスレンダーな体型だ。
まあ、体型に関しては好みの問題なので、主観を排除して客観的に見れば、この女の子は非の打ち所のない美少女だ。
そして、確信した。きっとこの美少女がおれの人生の二人目のメインヒロインだ、間違いない。
別に、メインヒロインが複数いたって問題ないよな。だって、ラブコメ作品とかだと、メインヒロイン級のキャラが複数いるのは普通にあるし、なんなら複数のヒロインと恋人になる作品まである。
だから、おれの人生のメインヒロインが複数いたって別にいいよな? いいよね? いいに決まってる!
さて、メインヒロインが複数いてもいいということが満場一致で決定したところで二人の会話をうかがうと、おれの二人目のメインヒロインが自己紹介を始めるところだった。
「あたしはサフィア・ラステリ-スよ。あなたは?」
「わたしはリミア・アトレーヌと言います。それで、こちらが……」
そう言って、リミアがおれのほうを見る。ちょうどいいので流れに乗って自己紹介しておこう。
「おれはレイン・バーンズアークだ。よろしく」
「ええ、よろしくね」
「よろしくお願いします」
……で、とりあえずよろしくって言っちゃたんだけど、これどういう流れで自己紹介することになったんだろう? おれの二人目のメインヒロインことサフィアに見惚れてて話をなにも聞いていなかったんだが。
おれが状況を把握できず困っていると、リミアがヒントとなる言葉を発する。
「三人とも合格できるといいですね」
「ええ、そうね。まあ、あたしは余裕で合格だと思うけど」
サフィアがなにやら自信満々にない胸を張っていた。
……なるほど。今の話のおかげで状況は把握できた。
会話の流れとしては、「宿屋を探しています」→「旅でもしてきたの?」→「魔法学院の入学試験を受けにきたんです」→「あたしも受けるのよ。じゃあ、自己紹介をしましょう」みたいな感じだな。
「ラステリ-スさんは――」
「サフィアでいいわよ。あたしのほうは……、そうね、ミアって呼んでいいかしら?」
「はい、大丈夫です。じゃあ、改めて、サフィアさんはすごいですね。わたしはけっこう不安です……」
「ミアもきっと大丈夫よ。自信を持ちなさい」
うーむ、おれとしては引っかかる会話だな。おれの魔眼によると、サフィアの魔力量はかなり高いが、保有魔法は三種類。
そこに、おれが独自に入手した情報を合わせると、サフィアは絶対に合格とは言えない。にも関わらず、サフィアは合格を確信しているかの口ぶりだ。まあ、サフィアは合格基準を知らないだろうし、自分の実力に自信があるゆえの発言なんだろう。
それなら、今のうちに合格基準を伝えてやるべきか?
……いや、駄目だな。なんで、魔法学院の先生でもないおれが合格基準を知っているんだという話になるし、そもそも初対面のおれがそんな話をしても信用されないだろう。
まあ、絶対に合格とは言えないだけで、サフィアのこの魔力量なら十中八九合格だろう。だから、そんなに気にすることでもないか。
そんなことを考えているうちに二人の会話が終わり、そのあとサフィアがありがたい申し出をしてくれた。
「それで、宿屋を探してるんだったわよね? せっかくだし案内してあげるわ」
「ありがとうございます、サフィアさん」
楽しそうに話しながら宿屋へ向かうリミアとサフィアの後ろをおれもついて行く。うんうん、女の子同士、仲が良さそうでなによりだ。
さて、宿屋までの道だが、先ほどからすれ違うモブの男どもがリミアとサフィアを見ているな。まあ、こんな美少女が二人揃って歩いてたら人目を引くよなあ。いや、一人で歩いていたとしても人目を引くだろうけど。
だが、幸い誰かに声をかけられることもなく無事に宿屋まで到着した。いや、しかし危なかったな。もし、誰かがおれのメインヒロイン達をナンパでもしたら、いかに温厚なおれでもうっかり手を出してしまうかもしれなかった。
「じゃあ、あたしはこれで。また明日会いましょう」
「はい、ありがとうございました」
「ありがとな」
サフィアはおれ達に軽く手を振って去って行った。
こうしておれとリミアは、おれの二人目のメインヒロインであるサフィア・ラステリ-スとの邂逅を終えた。
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