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第89話 屋上での夜景

 放課後の魔法特訓も生徒会での仕事も終えた夜。


 おれは自室には帰らず魔法学院の屋上に一人で座り王都の町中を見下ろしていた。おれがこうしているのは、王都内でなにか事件が起きていないかを監視するため、……ではなくこういうのってなんかカッコよくねってふと思ったからである。


 ……ふむ、実際にやってみたけどけっこういいな。こうやって、高いところから街並みを見下ろすのってなんか強者感があってカッコイイ。今度から定期的にやるとしよう。


 おれがそう考えていると、誰かが屋上に上がっている気配がした。こんな時間に誰だろう?


「そこにいるのはバーンズアークか?」


「ああ、アイシス先輩ですか。どうしたんですか、こんなところで?」


「屋上に人がいる気配がしたから様子を見に来たんだよ。君こそどうしたんだ?」


「……えーっと、なんかこういうのってカッコイイと思いまして……」


 特にいい言い訳も思いつかなかったので正直に理由を言ってしまった。だが、アイシス先輩はそんな理由に呆れることもなく話を続けてくれる。


「そうか……。私には理解できなさそうで申し訳ない」


「いえいえ、趣味嗜好は人それぞれですし謝るようなことじゃないですよ」


「……いや待て。試しに同じことをしてみればなにか分かるかもしれないな」


 そう言って、アイシス先輩はおれの隣に腰を下ろした。理解できないで終わらずに理解しようとしてくれるとかちょっと良い先輩すぎじゃない、この人。


 あと、あれだね。こうして男女二人きりで屋上から百万ドルの残業、……もとい百万ドルの夜景を見ているとか恋人っぽいよね。横でそんなことを考えているおれとは対照的に、アイシス先輩は悩ましげに口を開いた。


「うーむ……。やはりよく分からないな……」


「…………あれですね。手を繋ぐと分かるかもしれません」


「そうなのか? ……まあ、それくらいなら構わないか」


 そう言って、アイシス先輩はおれの手を握ってきた。……なんかもっと恋人間を出したくて言ってみたんだが、本当にやってくれるとは思わなかった。


「……ち、ちなみに肩を寄せ合うとさらにいいみたいです」


「そうか。では、そうしてみよう」


 アイシス先輩がおれに近づきお互いの肩や腕が密着する。ヤバい、アイシス先輩のような美少女とこんな状態になるとかすごい嬉しいしドキドキしてきた。あと、距離が近いせいかアイシス先輩からいい匂いもする。


 そんな、完全に恋人と言える状態が十分ほど続いた後で、アイシス先輩が真面目な声で話し始めた。


「すまない。やはり、私にはよく分からないようだ」


「い、いえ、仕方ないですよ」


 いかん、なんかすごく罪悪感が襲ってきた。アイシス先輩がおれの言うことを素直に聞いてくれたのは信頼の証なんだろうに、おれのほうはただ邪なことを考えていただけだからな。


「少し顔色が悪いようだがどうかしたのか?」


「あー、いえ別に……」


「なにか悩みがあるなら遠慮なく相談してくれ。私で良ければ力になるよ」


 アイシス先輩は優しい目でおれのことを見つめてきた。……駄目だ、こんなおれのことを真剣に心配してくれるこの善意には耐えられない。ここは、正直に謝ろう。



「……すいません。実はさっきの手を繋ぐとか肩を寄せ合うといいって話は嘘なんです。本当にすいません」


「そうだったのか……。しかし、なぜそんな嘘を?」


「……その、アイシス先輩みたいなきれいな人とそういうことをしたくなってしまってつい」


「そ、そうか。私がきれいか……」


 アイシス先輩は頬を朱に染め、恥ずかしそうに顔を少し下に向けた。


「そんなに照れなくても……。アイシス先輩ならよく言われるんじゃないですか?」


「それはその通りだが私の場合は立場上、社交辞令で言われているように感じていてな。だが、その点でいうと君のその言葉は本音なのだろう。なにせ、私にそんな嘘をつくほど身分の差を気にしていないようだし」


「すいません、やっぱり失礼ですよね」


「いや、むしろ嬉しいよ。周りは誰もが私に気を遣ってくれるが、それを心苦しくも思うからな。だから、君さえ良ければ今まで通りに接してくれ」


「……分かりました。ありがとうございます」


 おれはアイシス先輩に頭を下げてお礼を言った。


 ……あれ、そういえばアイシス先輩と手を繋いだままなんだけど、これはマズイよな。


「すいません、手とか離したほうがいいですよね?」


「……だが、君としては私とこうしていたいんだろう?」


「まあ、おれのほうはそうなんですが……」


「では、もうしばらくはこのままにしよう。嘘をついたことを正直に話して謝罪したご褒美だ」


 そう言って、アイシス先輩は先ほどよりも強くおれの手を握り、こちらに寄りかかってきた。そのせいで、おれは先ほど以上にドキドキするし顔も赤くなっているのを感じる。そして、心なしかアイシス先輩の頬も赤く染まっているように見える。


「えーっと、あれですね。夜景がきれいですね」


「そうだな……。それに、誰かとこんな形で時間を過ごすのは初めてだが、こういう時間も悪くないな……」


 夜景を眺めながらそう言うアイシス先輩の横顔は、夜景よりもはるかにきれいに見えた。


第89話を読んで頂きありがとうございました。また、評価やブックマークなどをしてくれた方もありがとうございました。


それで、更新ペースに関してですが、少しだけ話のストックができたのでしばらくは水・日曜の週2回更新にしようと思います。なので、次は水曜日の夜に更新予定です。


以上です、これからも本作をよろしくお願いします。

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