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第86話 シャワー室

 現在は放課後の魔法特訓中、サフィアは用があって先に帰ったので、おれとリミアの二人きりだ。


「今日はそろそろ終わりにするか。けっこう疲れただろ?」


「……そうですね。疲れたし、終わりにしましょうか」


 言葉の通りに疲れた表情を見せながら、リミアはおれの問いに同意した。ただ、いつもよりも疲れているように見えるな。


「だいぶ疲れてるように見えるけど、なにかあったのか?」


「いえ、そういうわけではないです。ただ、暑いなと思って……」


「ああ、そういうことか」


 日本と同じくこの世界にも四季があるみたいだからな。そして、六月に入ったこともあり、最近はけっこう暑い。そのせいで、リミアが普段以上に疲れているように見えたのか。確かに、よく見ると汗をかいているな。


「こう暑いと、帰る前にシャワーを浴びたいです。確か、この訓練場の近くにシャワー室があるんですよね?」


「ああ、そういえばあったな。……えっと確か、この訓練場を左に出て突き当たりを、……右だったな」


 今までシャワー室を使用したことはないので記憶があいまいだったが、なんとか場所を思い出すことができた。


「ありがとうございます。じゃあ、わたしはシャワーを浴びてきますね」


「分かった」


 そう言って、訓練場を出ていくリミアの足取りはやや重い。まあ、心配するほどではないかな。心配と言えば、むしろ他に心配することがあるのではないだろうか? そう思い、おれは自分の服の匂いを嗅いだ。


 ……駄目だ、やはり自分の匂いはよく分からない。だが、おれも多少は汗をかいているので臭い可能性がある。それはつまり、シャワーを浴びて戻ってきたリミアに臭いと思われる可能性があるということだ。


 ……うん、それはいけないな。おれもシャワーを浴びたほうがいいだろう。そう判断したおれは手早く片づけを終え、男子用のシャワー室へ向かいドアを開けて中に入る。すると、そこには先客がいたのだが、それは予想外の人物だった。


「えっ、リミア!?」


「レ、レインさん!?」


 シャワー室、正確に言えばその手前にある更衣室にいたのはリミアだった。しかも、服を脱いで下着姿になっており、おれはつい目を奪われてしまう。


 上下ともに清楚さを感じさせる白い下着。普段はニーソに隠されている細くてきれいな脚と女性らしいくびれた腰。そして、なによりも目を惹かれるのは、その大きな胸であり、下着を身に着けているがゆえに谷間もできている。


 本来であれば目を逸らすのが正しいのだろうが、その魅惑的な姿に対しおれの視線は釘付けになってしまう。そんなおれの視線を受けて顔を真っ赤にしたリミアは、恥ずかしそうに身体をよじり、両腕で下着姿を隠しながら口を開く。


「……あ、あの、後ろを向いてもらえると……」


「そ、そうだよな! 悪い!」


 リミアの言葉で正気を取り戻したおれは、リミアに言われた通りに後ろを向いた。


「というか、なんでリミアがここに?」


「それはだって、レインさんがシャワー室はここだって教えてくれたから……」


「いや、そうだけどこっちは男子用の……あっ!」


 そうか! あのとき、つい自分の立場で考えて男子シャワー室の場所を答えてしまったのか。女の子であるリミアに訊かれたんだから、女子シャワー室の場所を答えなきゃ駄目じゃないか。


「ごめん、リミア。女子用のシャワー室はこの部屋の反対側だ」


「そ、そうだったんですね……。疲れていたせいで入る前にちゃんと確認してませんでした」


「本当にごめん。じゃあ、おれは外に出るから服を着てくれ」


 外に出ようとしたおれだったが、ちょうどこちらに向かってくる男子生徒の声に気付いた。


「あー、今日も疲れたなー」


「はやくシャワーを浴びて帰ろうぜ」


 ヤバい! このままではリミアが服を着る前にあの男子生徒達がここに入って来てしまう!


「リミア、マズイぞ! 他の男子が入ってくる!」


「えっ!! ど、どうしたら!?」


「そ、そうだ! ロッカーに隠れよう!」


 急いでリミアをロッカーの中に押し込み、その勢いでドアを閉めながらおれも中に入った。そのあと、すぐに先ほどの男子生徒たちが入って来る音がしたので、どうやらギリギリで間に合ったみたいだな。


「……あ、あの、レイン……さん」


「もう大丈夫だぞ。あの男子たちは違うロッカーを使ってるみたいだし」


「そ、そうじゃ……なくて……、その、手を……どけて……」


 その言葉で自分の手に意識がいくと、なにか柔らかい物に触れているのに気付いた。視線を向けると、おれの両手はおもいっきり下着姿のリミアの胸に触れている。というか、それだけにとどまらず両手で両胸をおもいっきり揉んでいた。


 前に揉んでしまったときも思ったけど、リミアの胸はとても柔らかくて気持ちいいからずっとこうしていたい。しかも、今回は下着姿のせいで胸の北半球ともいえる部分が見えているので、揉むたびにおれの指が胸に埋もれることでその柔らかさが視覚的にもはっきりと分かる。


「レ……レイン……さん、はや……く」


「あっ!! ご、ごめん!!」


 リミアが再び恥ずかしそうな声を上げたことで、おれも再び正気を取り戻す。そして、両手をどかそうとするのだが、ロッカーに二人で入ったせいでサイズ的にギリギリであり、手を左右や上に動かすことはできても完全にどかすことができない。しかも――


「んっ……」


「ご、ごめん! じ、じゃあ、こっちなら!」


「あっ……」


「駄目だ! なら、こっちは!」


「んぁ……」


 おれが勢いよく手をどかそうとするせいか、その度にリミアがなまめかしい声を上げる。いかん、このままでは色々とマズイ! どうすればいいんだ!?

………………あっ、そうだ! よく考えたら外にはもう誰もいないんじゃないか?


 そう思ったおれは魔力感知を発動して周囲に人がいないかを探る。……よし、更衣室内はもちろんその周辺にも誰もいない。今なら、ロッカーの外に出ても問題はないな。


「リミア。今なら周りに人はいないから大丈夫だ。だから、おれが先に更衣室を出た後で、リミアもロッカーを出て服を着てくれ」


「……分かり……ました」


 リミアに言った通りにおれは急いで更衣室の外に出た。


 ……こうして落ち着いたおかげで気付いたけど、別におれまでロッカーに隠れる必要はなかったんだよなあ。後は、<変身(メルフォス)>でなにか小さい生物に変身すれば、リミアの胸から手をどかすのも簡単だったはずだ。


 まあ、今更気付いても後の祭りなんだけど。


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