第85話 魔力障壁
「は~い、ではみんな~、本日の実技の授業を始めま~す」
もしかして、これは回復魔法の一種なのでは、と思えてくるいつもの癒やしボイスでルミル先生がそう宣言した。
「今までは~、主に攻撃魔法の授業をしてきましたが~、今日は防御について教えま~す。防御魔法も色々とありますが~、今日教えるのはこの魔力障壁で~す」
そう言って、ルミル先生は自分から離れたところに魔力障壁を展開する。その後、<岩石砲>・<氷柱槍>・<火炎弾>・<疾風刃>の順に魔法を放ったが、魔力障壁はそれらの魔法を防ぎヒビ一つ入らなかった。
「このように~、魔力障壁は色々な攻撃魔法を防ぐことができま~す。さらに~、この魔力障壁は実体を持つので~、魔法攻撃だけでなく物理的な攻撃も防げるとても優秀な防御手段で~す」
今度は自分の目の前に展開した魔力障壁を右手の拳でコツコツと叩きながら、ルミル先生はそう説明した。
「しかも~、この魔力障壁は純粋な魔力の塊で作られてま~す。これにより~、一つの長所がありますが~、誰か分かる生徒はいますか~?」
ここで、ルミル先生が問題を出してきた。周りを見ると、首をかしげている生徒が多いのでおれが答えようと思ったのだが、その前に他の男子生徒が手を上げた。
「誰でも使うことができる、ということですか?」
「は~い、正解で~す。お見事~」
ルミル先生がパチパチと拍手をして先ほどの男子生徒を褒め称えた。……くっ、ルミル先生に褒めてもらえるならおれが答えたかった。だが、あの男子生徒はおれと同じルミルの民みたいだから、まあいいだろう。とはいえ、次があればそのときはおれが答えさせてもらうがな。
「では~、もう少し具体的に説明しますね~。純粋な魔力の塊ということは~、特定の魔力属性を持っていませ~ん。そのため~、みなさんが使える魔法である保有魔法に左右されずに~、誰でも魔力障壁は使えるということで~す」
そう言った後、ルミル先生は右手の人差し指をピンと立てながら言葉を続ける。
「ここまでが~、魔力障壁の長所ですが~、当然短所もありま~す。では~、それはなんでしょう~?」
その言葉におれはすぐに手を上げ、その答えを口にした。
「優秀な防御手段であるがゆえに、魔力消費が大きいことです。そのため、相手が発動した攻撃魔法の威力を見極め、最小限の魔力量で必要な大きさの魔力障壁を展開することが理想になります」
「は~い、正解で~す。しかも~、今度は先生が説明しようと思っていたところまで合っているので~、とても素晴らしいですね~」
ルミル先生が先ほどよりも大きな拍手をしておれを褒めてくれた。やったぜ!
「では~、実例を見せますね~。このように~、魔力出力を調整することで~、色々な大きさの魔力障壁を展開できま~す」
その言葉の通り、ルミル先生は大きさや厚さを変えた魔力障壁をいくつか展開していた。
「とはいえ~、最初からは難しいので~、まずは~、大きさなどは気にせずに魔力障壁を展開してみましょう~。では~、はじめ~」
ルミル先生の掛け声で生徒達は魔力障壁の展開を始めた。そうは言っても、一応は展開できている生徒、展開できたがすぐに砕け散った生徒、そもそも展開できていない生徒など結果は様々だが。
さて、おれの人生のメインヒロインであるリミアとサフィアはどうかなと思い見てみると、二人ともちゃんと魔力障壁を展開できていた。元々、才能がある上に放課後の特訓で魔力操作の技術も高まっているからな。当然の結果と言えるだろう。
見た感じ、今は二人とも集中しているようだな。であるならば、今は邪魔しないほうがいいだろう。そう思っていたおれに、生徒達の様子を見回っていたルミル先生が声をかけてきた。
「先ほどの回答もそうですが~、やはりレイン君は優秀な生徒ですね~。もしかして~、誰かに魔法について教わったことがあるんですか~?」
「はい、実は良い師匠に恵まれまして。その師匠の元で、幼少期から修業をしていました」
「幼少期からですか~! それは~、と~っても偉いですね~」
そう言って、ルミル先生はおれの頭をそのきれいな右手でなでなでし始めた。……こ、これがルミル先生のなでなでか! な、なんという癒しパワーだ! おれ、もう死んでもいいかもしれない……。
あと、おれがルミル先生からこうしてなでなでしてもらえたのも師匠のおかげだな。本当にありがとう、師匠。