第84話 立派な考え
放課後、おれは生徒会室を訪れていた。
いや、訪れていたというと語弊があるな。というのも、一応おれも生徒会の人間だからね。だから、今日は生徒会役員としてお仕事に来たわけである。なので、今日も一日がんばるぞい!
と、意気込んでみたものの、生徒会ではまだまだ新米の庶務であるおれはお手伝いくらいしかできることがない。ゆえに、まずは今日やることの確認だな。
「アイシス先輩、今日はなにをすればいいですか?」
「そうだな……。まず、今月末に魔法大会が開催されていることは知っているか?」
「はい、知ってます。ということは、もしかして……」
「察しの通りだよ。その件で生徒会でもいくつか仕事があるんだ」
アイシス先輩がそう言った後、近くでその会話を聞いていた副会長のシェーナ先輩が話に入って来た。
「魔法大会と言えば、昨年の会長のご活躍は非常に素晴らしかったですね。できることなら、バーンズアークさんにもお見せしたいものです」
「そういえば、アイシス先輩は一年生で優勝したんですよね。さすがです」
「ありがとう。だが、そんなに大したことではないよ。……いや、こう言ってしまうと、対戦した生徒達に失礼だな」
一度は謙遜したアイシス先輩だが、すぐに自分の発言を訂正していた。確かに、謙遜しすぎるのも良くはないな。かといって、謙遜しないのもどうかと思うし、さじ加減が難しい話だな。
そして、そんなアイシス先輩のことが気になったのか、会計のブリッド先輩と書記のエルフィ先輩も話に入って来た。
「はっはっは、謙遜など不要ですよ、会長殿!」
「そそそうですよ。会長さんがすごく強いのはみんな知ってますし」
「ええ、本当に会長はお強いですし、そんなところも魅力の一つですよね」
シェーナ先輩はアイシス先輩をうっとりとした目で見つめ、他の二人はその意見にうんうんと頷いていた。相変わらず、アイシス先輩のことが大好きな生徒会のみなさんである。
そんな周囲の誉め言葉に対し当のアイシス先輩は礼を言った後、おれのほうを向いて口を開いた。
「そういえば、バーンズアークは魔法大会に参加するのか?」
「はい、参加しますよ」
「そうか……。では、少し確認したいことがあるから応接室に来てくれるか」
「……? 分かりました」
確認したことはなにかとか、なぜ場所を変えるのかなど疑問はあったが、おれはアイシス先輩に続いて素直に応接室へと向かう。そして、応接室のドアを開いたアイシス先輩が部屋に入る前に他の人達に声をかけた。
「すまないが、私達は少し外させてもらう。バーンズアークと二人きりで話したいことがあるんだ」
「まあっ!! もちろん構いませんよ、会長。お二人で好きなだけ過ごしてくれて構いません」
「こちらの仕事は我々に任せてください!」
「がが頑張ります」
少し話をするだけだと思うのだが、なぜか三人は嬉しそうにしていた。そして、おれとアイシス先輩が応接室に入った後、
「あの真面目な会長が仕事中に恋人と二人きりになりたいなんて! そんなに、そんなに想いを抑えきれないんですね! きゃあ~~~~~!!」
という、シェーナ先輩の叫び声が響いた気がした。
*****
「それで、確認したいことってなんですか?」
「君の秘密についてだよ。魔法大会では、本当の実力を隠して戦うんだろう?」
「ああ、そういうことですか。はい、風魔法しか使わないつもりですよ」
「そうか……。それは当然なんだろうが、私としては少々複雑な気分だな」
アイシス先輩は腕を組み、悩ましげな表情をしていた。
「どういうことですか?」
「魔法大会はトーナメント方式だが、君と私の実力を考えれば二人とも順当に勝ち上がるだろう。その場合、どこかで戦うことになるのだが、その際に君のほうは本気で戦えないことになる」
「つまり、ハンデ戦になってしまうのが納得できないってことですか?」
「ああ、そうだよ。これでは、私に有利すぎるだろう」
なるほど、そういうことか。自分が有利だということに不満があるとは、アイシス先輩らしい立派な考えだな。とはいえ、おれのほうにも事情があるので、残念ながら本気を出すわけにはいかない。
さて、どうしようかと考えていると、おれより先にアイシス先輩が自分の考えを話し始めた。
「私も風魔法しか使わなければ条件は同じだが、それでは他の生徒に不自然に思われるからな。それに、私は生徒会長として、そしてエディルブラウ公爵家の人間としてその力を示す必要もある。そうなると、四属性攻撃魔法くらいは使用する必要があるな。やはり、私に有利な条件になってしまうが、君はそれで構わないか?」
「……まあ、原因はおれのほうにありますからね。だから、それでいいですよ」
「そうか、すまないな。……それと、もう一つだけいいか?」
「なんですか?」
「もし、この条件で私が勝った場合は、後日改めて戦ってもらえないだろうか? もちろん、そのときは人払いをして君の全力でだ」
アイシス先輩は真剣な眼差しでおれの目を見た。おれとしては、全力を隠す必要があるのだが、正々堂々と戦いたいというその強い意志を無視するわけにもいかないな。
「分かりました。もし、おれが魔法大会で負けた場合は改めて戦いましょう」
「ああ、ありがとう。では、そのときはよろしく頼む」
そう言って、差し出されたアイシス先輩の右手に対し握手をして、おれはその想いに応えた。