第83話 飛行特訓②
おれがサフィアのほうを見ると、一人で自主練をしていた。手持ちぶさたな状況でもちゃんと練習をしているとは感心だな。
「待たせたな、サフィア。やるぞ」
「ええ、お願いね」
リミアのときと同様にサフィアも高度を上げていき、おれもそれに追従して空を飛ぶ。そして、サフィアのほうも地面から三メートルほど上がったところでバランスを崩したので、おれが抱きしめてそれを助けた。
「サフィア、大丈夫か?」
「え、ええ、ありが……っ!」
「どうした?」
「手よ! あなたの手!」
そう言われたので、おれは視線を下に向け自分の手を確認する。まず、左手はサフィアの背中にあるな。次に、右手は……どこだろう? おれの右手があるはずの位置に布が存在しており、おれの手はその中にあるようだ。
……あれ、この布ってどう見てもスカートだよな。で、おれの右手がその中にあり、さらになにか柔らかい物に触っているのが分かる。状況的に、この柔らかい感触の正体はサフィアのおし――
「いつまで触ってるのよ!」
「お、おい、暴れるな! 危ないぞ!」
「いいから放しなさいよ! このバカっ、スケベっ、変態っ、最っ低!」
「だから、危ないって! あっ!」
「いやあああああ!!」
激しく暴れられたためおれの手が離れてしまい、サフィアが落下していく。だが、急いで追いかけたことで、サフィアが地面に着く前にキャッチし、無事に地面に下ろすことができた。
落下の恐怖からかサフィアは息を乱していたので、それが落ち着くのを待ってからおれは声をかける。
「さっきは悪かった。一応、わざとではないんだが、ごめんな」
「……ううん、いいの。それより……」
「なんだ?」
サフィアは不安げな目をしながら、言葉の続きを発する。
「急にあんなことになったせいで取り乱して、思わずあなたにひどいことを言っちゃったわ。あたしのほうこそ、本当にごめんなさい」
「ああ、それはいいよ。別に気にしてないし」
「ホントに? ……その、あたしのこと……嫌いになってたりしない?」
「なに言ってんだ。嫌いになんてなるわけないだろ」
「そっか、良かった……」
先ほどから一転して、サフィアは心底安堵した表情を見せた。まあ、確かに何度も罵倒されたからな。とはいえ、その原因を作ったのはおれなので、別にサフィアは悪くない。
男であるおれには分からないが、急にお尻を触られた上にその状態が続けば、女の子としては当然嫌だろう。それなら、つい勢いでそういう言葉が飛び出したとしても、それは仕方がない話だ。
ただ、こうなると練習方法は変えたほうがいいかもしれないな。本人に確認してみるか。
「この後はどうする? 今のやり方だと、助けるときにおれが抱きしめることになっちゃうし、他の方法を考えたほうがいいか?」
「それは…………別にいいわ。……うん、変なところに触らないように気をつけてくれれば、それで……」
サフィアは赤くなった頬を隠すように下を向き、かぼそい声でそう答えてきた。どうやら、おれに抱きしめられるのは大丈夫みたいだな。そういえば、前にサフィアとデートしたときにもしたことがあったが、特に嫌そうには見えなかったはずだ。
それに、先ほどはおれに嫌われていないことを安心していたりもしていたな。そのあたりを踏まえると、抱きしめてもいいくらいには好感度を得ているということなのだろうか? 残念ながら、おれの恋愛力では女心がよく分からないが。
まあ、とりあえずサフィアのほうは今の方法で問題ないことは確認できたので、次はリミアだな。近づいて様子を見た感じではだいぶ落ち着いているようなので、声をかけても大丈夫だろう。
「リミアはどうする? もし、怖かったり嫌だったりしたら、別の練習方法を考えるけど」
「い、いえ、今の方法でいいです」
「本当にいいのか? 自分一人で安全に飛べるようになるまではしばらく日数がかかると思うけど」
「はい、大丈夫です。……というか、むしろ今の方法のが良いというか……」
先ほどのサフィアと同様、リミアも赤くなった頬を隠すように下を向き、かぼそい声でそう答えてきた。そのせいで、後半はよく聞こえなかったが、特にリミアのほうも問題はなさそうだ。
よし、これで二人とも確認はできたし、今の練習方法で大丈夫だろう。後は、様子を見て問題があれば、そのときに考えよう。
こうして、おれはしばらくの間、素晴らしい役得をもらいながらリミアとサフィアの飛行特訓に付き合えることになった。
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