第82話 飛行特訓①
放課後になり、いつものようにリミアやサフィアと魔法特訓の時間になった。
「少し考えたんだが、今日は飛行魔法の特訓をしようと思う」
「飛行魔法……ですか?」
「別にいいけど、理由はなんなの?」
「魔法大会ではリング上で戦い、そこから落ちたら場外負けになるっていうルールがあったからな。そうなると、飛行魔法を使えるほうが明らかに有利……、というより使えないと不利と言ったほうが正確だろうな」
もし、これが「運命を決めるにしちゃせこいリング」なら壊してしまえば場外負けはなくなるのだが、この魔法大会ではそうはいかないだろうからな。ゆえに、飛行魔法を教えようと思ったわけであり、反応を見るに二人ともおれの先ほどの言葉の意味を理解してくれたようだ。
「確かに、二・三年生なら飛行魔法を使える人が多そうです」
「そうなると、空を飛べないあたし達は一方的に不利になるわね」
「そういうことだな。じゃあ、二人とも今日の特訓は飛行魔法、つまり<飛行>でいいな?」
「はい、大丈夫です。だけど、<飛行>って風魔法ですよね?」
「そうよね。あたし達にも使えるの?」
もっともな質問だな。だが、それに関しては問題ない。
「ああ、この二ヵ月の授業で二人に風魔法の素質があるのは分かってるからな。修得難度は低くないが、これまでの特訓の様子を見るにそれも大丈夫だろう。とりあえずは、場外負けの目をなくすために空に浮けるようになるのが目標だな」
「分かりました。じゃあ、よろしくお願いします」
「よろしくね、レイン」
「任せろ。なら、まずは<飛行>の魔法陣を描くところからだな。できないところはおれが補助するからやってみよう」
こうして、リミアとサフィアは<飛行>の特訓を開始し、おれはその様子を見守る。ふむ、しばらく見た感じでは、補助してやればそろそろ魔法の発動はできそうだな。そう判断したおれは二人が魔法陣を描くのを手助けし、<飛行>を発動させた。
「わあ……、飛べました……」
「な、なんか変な感じね」
初めての飛行体験に二人はそう感想をこぼした。よし、良い感じだな。とはいえ、まだ地面から少し足が離れてるくらいだから、もう少し難易度を上げたほうがいいか。
「二人とも、もっと高く飛べるか?」
「できる気はしますけど……」
「ちょっと怖いわね……」
言われてみればその通りだな。おれは空を飛ぶのにすっかり慣れきっていたせいで、高く飛ぶ恐怖をすっかり忘れていた。だが、高く飛ぶのは<飛行>の練度を上げるためには必要だしなあ。
「……じゃあ、おれが一緒に飛んでいざってときは助けるからそれでいくか。ただ、二人同時だと危険度が上がるから、まずはリミアからにしよう」
「分かりました」
助けるという言葉に安心したリミアは高度を上げていき、おれもそれに追従して空を飛ぶ。しばらくは順調だったが、地面から三メートルほど上がったところでリミアがバランスを崩した。
「きゃっ!」
「大丈夫だ、落ち着け」
「は、はい、ありがとうございます」
空から落ちそうになったリミアを抱きとめて、おれはそう声をかけた。……今気づいたんだけど、この特訓方法だとおれは美少女に合法的に抱きつけるのですごい役得だな。とはいえ、リミアのほうは怖いだろうから、素早く下りたほうがいいか。
「安心しろ。すぐに地面に下ろしてやるからな」
「あ、待ってください」
「どうした?」
「……その、できればゆっくり下ろしてもらっていいですか?」
「? まあ、リミアがそのほうがいいなら」
……なるほど。考えてみれば、下りるときのスピードが速いほうが怖いか。それに、おれとしてもリミアを抱きしめているこの状況は長いほうが嬉しいしな。嬉しいといえば、先ほどのリミアの声も怖いというよりは嬉しそうに聞こえたが、まあ気のせいだろう。
というわけで、リミアの希望に従いなるべくゆっくりとした速度で地面に着いた。その後、手を放してリミアの顔を見ると真っ赤に染まっている。
「顔がすごい赤いけど大丈夫か?」
「え、あ、これは怖かったからだと思います、はい」
「そっか、ごめんな。気分が落ち着くまで向こうにある椅子に座って休んでてくれ」
「そ、そうしますね」
そう言って、リミアは逃げるように椅子へと走っていった。なにやら言動も不自然だったし、おれが思っていた以上に怖かったのだろうか? ただ、表情のほうはむしろ嬉しそうに見えたのでよく分からないな。まあ、後で本人に確認して、怖いようなら練習方法を変えればいいか。
さて、次はサフィアの番だな。