第81話 魔法大会
「今日から六月で~す。つまり~、みなさんがこの魔法学院に入学してから二ヵ月が経ちました~」
授業前のホームルームにておれ達のルミル先生がそう話し始めた。その後、ルミル先生が黒板になにかを書き出したのでそれを見ると、『魔法大会開催』と書かれている。
「というわけで~、今月末にこの学院の生徒同士で戦う魔法大会が開催されま~す。これは~、この魔法学院で毎年この時期に行われている恒例行事で~す。ただし~、生徒は全員参加というわけではなく~、希望者のみの参加で大丈夫ですよ~」
まあ、全員参加だと人数が多すぎる上に、おれ達はまだ一年生だしな。この大会のメインは二・三年生の実力者なのだろう。とはいえ、別に一年生でも実力に自信があれば出場してもいいみたいだな。
おれがそう思っていると、ちょうどルミル先生からもそれに関する説明が出てきた。
「毎年~、一年生の参加は少ないですが~、出たい人は遠慮なく参加してくださいね~。ちなみに~、昨年度の優勝者はアイシス生徒会長さんで~す」
ルミル先生のその言葉に教室内がざわつき、アイシス先輩を褒めたたえる声が聞こえてきた。間違いなくアイシス様ファンクラブ、つまり『姫君の従者』や『騎士様の配下』の人達だな。
その後、ルミル先生による魔法大会のルール説明などがしばし続き、最後にこう締めくくった。
「それと~、この魔法大会の上位入賞者にはささやかながら賞金も出ますからね~。では~、魔法大会の説明は以上で~す。参加したい方は~、今から配る申し込み用紙に必要事項を記入して先生に渡してくださいね~」
そう言って、ルミル先生は一番前の席に座っている生徒達に申し込み用紙を渡した。それがおれ達のところまで回ってきたところで授業開始のベルが鳴ったが、教室内は魔法大会の話で盛り上がっていて授業が始まる雰囲気ではない。
だが、それを見たルミル先生は静かにならない生徒たちを叱るのではなく、優しい言葉を投げかけた。
「魔法大会に興味のある生徒がたくさんいて素晴らしいですね~。では~、この授業は自習にするので~、そのまま好きに話していていいですよ~。それと~、なにか質問があれば~、自由に聞いてくださいね~」
わざわざ自習にしてくれるなんてルミル先生は優しいなあ。先生次第では、「みなさんが静かになるまで五分かかりました」とかありうる場面だったし。さて、ありがたいことに自習になったので、どうすべきか考えてみるか。
まず、魔法学院内での大会なので、一星魔術師であるおれは風魔法以外を使うわけにはいかない。まあ、それでも他の生徒に負ける気はしないが、ありうるとすればそれはアイシス先輩だな。
さすがに、七星魔術師でかなりの実力を持つアイシス先輩相手に、風魔法のみというハンデを背負って戦うのは少々厳しいかもしれない。全力全開なら絶対に勝てるんだけどなあ。
まあ、仮に負けたからと言ってなにがあるわけでもないんだが。いや、違うな、それだともらえる賞金が減るのか。お金は多いに越したことはないし、他にはハンデありだとしても負けるのは悔しいしカッコ悪いか。
さて、どうしようかと考えていると、リミアがおれとサフィアに声をかけてきた。
「お二人はどうするんですか?」
「おれは考え中だな」
「あたしは出るわよ。なんか、こういうのって面白そうだし」
以前、ダンジョンの話を聞いたときもそうだが、サフィアはこういうイベントごとが好きなのかもしれない。なんなら、すでに申し込み用紙を書き始めている。
「リミアはどうするんだ?」
「出ようと思ってはいるんですが。もし、運よく上位入賞できれば賞金がもらえますし」
「リミアも賞金が欲しいんだな?」
「はい。賞金があれば、お母さん達になにか贈り物をあげたりできますし」
……うう、リミアは心のきれいな良い子だなあ。なんか、普通に使おうと思っていた自分が恥ずかしくなってきた。その思いが顔に出ていたのか、リミアが心配そうに聞いてくる。
「レインさん、どうかしたんですか?」
「いや、リミアがきれいだと思ってさ」
「っ! あ、ありがとうございます……」
リミアは頬を赤く染めながら下を向いてしまった。いや、本当にきれいな心だよなあ。それに比べておれときたらなんて卑しいんだ。……いやでも、別にお金を欲しがるのは悪いことじゃないよな。
なぜかというと、まず楽しい人生や幸せな人生を送りたいというのは当然のことだろう。で、そのためには好きなことをしたり、欲しい物を手に入れたりするわけだが、それには基本的にお金が必要だ。
つまり、『お金を求める』=『幸せを求める』ということになるので、別になにも悪いことはない。むしろ、良いことである。
そうおれが結論を出したときには、リミアも申し込み用紙を書き始めていた。ということは、リミアも魔法大会に参加ということだが、おれはどうしようかな? と、そのとき生徒の様子を見回っていたルミル先生がおれに声をかけてきた。
「レイン君は参加するんですか~?」
「実は、どうしようか考えてまして」
「そうですか~。レイン君はとても実力のある生徒ですから~、先生としては魔法大会で活躍する姿が見てみたいですね~」
「参加します」
ルミル先生のその言葉に、ルミルの民であるおれの口は思考を介さずにそう答えていた。
というわけで、おれも魔法大会に参加することが決定した。