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第80話 思わぬご褒美

 サフィアに盟約の指輪を渡し、彼女に「これからは、なにがあってもおれがサフィアを守るよ」と約束を交わした後の月曜日の朝。


 普段なら登校後はすぐに自分の教室に向かうところだが、今日のおれは別の場所を訪れていた。それがどこかというと、生徒会室である。より正確にいうと、生徒会室の中にある応接室だが。


「そうか……。また、事件が起きてしまったのに力になれなくて申し訳なかった……」


「いやいや、アイシス先輩が悪いわけじゃないですし」


「そう言ってもらえると助かるよ……」


 前回の誘拐事件のときは、相談などを行わずおれ個人の判断で動いてしまったことを叱られたりしたが、今回はそんなこともなさそうだ。サフィアの命を盾にして脅迫されていた以上、おれには選択肢もなかったし当然ではある。


 さて、アイシス先輩への報告は済ませたし、後はルミル先生かな。そう思い、ソファーから立ち上がると、アイシス先輩もおれに続いて立ち上がった。


「じゃあ、おれはこれで失礼しますね。ルミル先生のところにも行かないといけないですし」


「……いや、今回の事件に関して話し合うこともあるから、フェアリム先生への報告は私からしておこう」


「分かりました。じゃあ、よろしくお願いします」


「……それと、ラステリース達のところへもいかないとな。後は、もちろん……」


 そこで、いったん言葉を止めたアイシス先輩は頭を下げながらその続きを口にした。


「今回も、事件を解決してくれてありがとう。心から礼を言うよ、バーンズアーク」


「いえ、おれはそんなに大したことはしてないですよ」


「それは謙遜しすぎだよ。君の働きを考えればなにか褒賞を与えられてもいいくらいだ」


 確かに、謙遜に関してはアイシス先輩の言う通りではあるな。本来であれば、あの手の事件を解決するのは騎士団の仕事であって、学生であるおれがやることではないだろうし。


 そう考えているおれの前で、アイシス先輩も腕を組んでなにかを考えていた。……前から気になっていたんだけど、そうやって腕を組むとただでさえ大きいアイシス先輩の胸がより強調されてつい視線がいってしまう(腕を組んでいないときは視線がいってないとは言ってない)。


 その後、考え事を終えたアイシス先輩がおれに視線を向けたので、失礼のないようにこちらも目を見てその言葉を待った。


「……やはり、礼を言葉だけで済ますのも良くはないし褒賞が必要だろうな」


「いやいや、別にそこまでしてくれなくてもいいですよ」


「そう遠慮しなくていいよ。なにか、欲しい物などはあるか?」


「欲しい物ですか……」


 もし、その言葉の後に「なんでもいいよ」と続いたら、健全な男子であるおれはつい健全なことを考えてしまうところだが、残念ながら……ではなく幸いにしてそんなことにはならなかった。


 さて、真面目に考えるとして欲しい物か。……急に言われてもパッと思いつく物でもないなあ。シンプルで分かりやすく欲しい物ならお金なんだけど、さすがにそういうわけにもいかないしな。


 それと、褒賞と言われてもやはり気が引けるし、ここは遠慮しておこう。


「やっぱり、褒賞とかはいいですよ。その気持ちだけで充分です」


「そうか……。私としてはなにかしてあげたいのだがな。…………そうだ、これならどうだろう?」


 そう言って、アイシス先輩はおれの頭にそのきれいな右手を置いた。いったいなんだろうとおれが思っていると、アイシス先輩はそのままおれの頭を撫で始める。


「……あの、アイシス先輩、これは……?」


「魔法特訓の際、君に頭を撫でられたアトレーヌ達が随分と嬉しそうにしていたから、これなら喜ぶと思ったのだが違っただろうか?」


「あ、いえ、そういうことならすごい嬉しいです」


「そうか、良かった。では、君の気が済むまで続けるとしよう」


 おれの気が済むまでということなら、いつまで経っても済まない気がする。だって、こうやってアイシス先輩に頭を撫でられてると、年上の女性に甘やかされてる感じがしてすごい癒されるんだもん。


 と、ここでおれはとある重大な事実に気付いた。というのも、おれは正面から撫でられたので、それに伴い頭が下がり視線も下がる。すると、おれの目の前にあるのはアイシス先輩の大きな双丘であり、当然のごとく視線が釘付けになってしまった。


 別に、今のアイシス先輩は水着とかではなく普通に制服なのだが、いや制服だからこそ、その魅力が増しているのかもしれない。こうして、おれは褒賞という名のご褒美で、頭だけでなく目からも癒されていた。


 だが、そうして視線を向けていたのがいけなかったのだろう。次第に身体の重心が前に傾いていたようで、おれは前方向にあるソファーに倒れてしまった。もちろん、目の前にいたアイシス先輩を巻き込みながら。


「うわっ!」


「ひゃっ!」


 倒れた影響で視界が暗く染まったおれの顔が感じたのは柔らかい温もり。そして、おれが両手を動かすと、それとまったく同じ感触があった。


「ひゃん!」


 その可愛い叫び声におれが顔を上げると、目の前にあったのは羞恥に染まったアイシス先輩の顔だった。それを見ておれはすぐに立ち上がり、アイシス先輩に声をかける。


「す、すいません! こんなことをするつもりは……」


「い、いや、大丈夫だ。事故みたいな物だろうし気にしないでくれ」


 起き上がったアイシス先輩は恥ずかしそうに胸を腕で押さえながらそう言ってくれた。相手次第では大変なことになったが、相手が優しいアイシス先輩だったのは幸いと言えるだろう。


 こうして、アイシス先輩には申し訳ないが、おれとしては思わぬご褒美をもらってしまった。


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