第73話 リミアの戦い
レインとサフィアが命の危機に瀕している一方、リミアはもう一人の敵である短髪女と対峙していた。
「……それで、わたしはどうすればいいんですか?」
「一応、アネキにはこれでアンタを拘束しとけって言われてんだよねえ」
「その手錠は?」
「魔力行使を封じる魔道具だよ。けど、付けた相手の魔力を覚えた後で効果を発揮するから、実際に魔力を封じるまで少し時間がかかるんだよね。だから、隙をついてこいつを奪って、アタイにこれを付けても意味ないからね」
「……そんなことはしませんけど」
「だよねえ。そんなことは出来ないよねえ」
サフィアを人質に取っている余裕から笑みを浮かべながら短髪女がそう言った。そして、手錠をクルクルと回しながら退屈そうに話を続ける。
「やっぱり、この手錠を使うんじゃつまんないよねえ」
「……どういうことですか?」
「だってさあ、アンタは貴重な光魔法の使い手なんだろ? それなら、その力を見たくなるじゃない」
そう言って、短髪女は嗜虐的な笑みを浮かべながら舌なめずりをした。
「というわけで、アンタにはアタイと戦ってもらうよ」
「………………あなたの言う通りにしたら、サフィアさんを助けてもらえるんですか?」
「まっさかあ、そんなわけないじゃん。けど、言う通りにしなかったらその子がどうなるか分かんないよ」
「……分かりました。戦います」
「あ、もちろん全力できてね。でないと、つまんないから」
リミアと短髪女は互いに距離を取り、魔力を高めて臨戦態勢に入る。そして、リミアが右手を前に突き出しながら口を開いた。
「では、いいですね?」
「いいよお」
「いきます。<閃光矢>!」
「っと、危なっ!」
リミアの放った光の矢を、短髪女は魔力障壁を展開して防いだ。
「いやー、ギリギリだったなあ。やっぱ、光魔法って言うだけあってすっごい速いねえ。けど、今のは本気じゃないよね?」
「それは……」
「もし、アタイを倒せたとしてもあの赤髪の女の子がひどい目にあったりはしないよ。むしろ、アンタがアタイに負けたら、あの子にひどいことをしちゃおっかなあ」
「っ!」
「いいねえ。良い顔が出来るじゃない」
短髪女の言葉に対し、リミアは怒りを露わにして相手を睨む。大切な友人を傷つけると言われれば、普段はおとなしいリミアでもそんな反応をするのは当然だ。
「そういうことなら、本気でいかせてもらいます!」
「おおっ、いいねえ! すごい、すごいよ!」
リミアは<閃光矢>を連発し、光の矢の集中砲火を短髪女に浴びせる。だが、短髪女は自身の正面全体に魔力障壁を展開してそれを防ぐ。
「でも、それじゃアタイは倒せないねえ。それと、そろそろこっちからもいくよ。<巖岩石砲>!」
「それなら、<光体>!」
「なっ、消えたっ!? 痛っ!」
<光体>とは光魔法専用の身体強化魔法。その効果により、リミアは光速で<巖岩石砲>を避けるとともに短髪女の真横に移動し、がら空きとなっているところに<閃光矢>を放った。
その後もリミアは光速移動を続け、魔力障壁が展開されていないところから<閃光矢>を放ち続ける。その結果、攻撃を防ぎきれない短髪女は自分の周囲全体に魔力障壁を展開するまでに追い込まれた。
そのままでも攻撃を続ければいずれは魔力障壁を破れるが、それだけでは相手を倒すほどのダメージは与えられない。加えて、その方法では魔力消費が大きく、自分の身体がもたない可能性を考えたリミアは一度動きを止めて短髪女を見据えた。
だが、そうして動きを止めてしまったことが仇となる。
「今だっ! <土壁>!」
「っ! これは!?」
短髪女はリミアの左右に巨大な土の壁を出現させた。いかに、リミアが光速移動を出来るといっても、移動先を封じられてしまっては意味を成さない。この状況では、正面から魔法の打ち合いをしての真っ向勝負となる。
そして、その状況を作り出すことに成功した短髪女は魔力障壁を解除し、右手を前に出して魔法陣を描いた。
「これで終わりよ! <剛塊岩石砲>!」
「まだです! <輝閃光矢>!」
巨大な岩石と光の矢が正面からぶつかり合い、互いの魔法がその威力を相殺して共に消滅する。その光景に短髪女は驚きの声を上げた。
「なっ!? 中級攻撃魔法で上級攻撃魔法を!? 光魔法は速さだけでなく、威力まで他の魔法より高いってこと!?」
その事実に戸惑い、短髪女は一瞬動きを止めた。だが、すぐに気持ちを切り替え、再び<剛塊岩石砲>を放つために魔法陣を描き始める。だが、それを描き終える前にリミアが魔法を放った。
「<輝閃光矢>!」
「バカなっ! 速っ!?」
上級攻撃魔法と同等の威力を見せた<輝閃光矢>だが、それはあくまでも中級攻撃魔法である。ゆえに、上級攻撃魔法よりも魔法の発動は速い。さらに、光魔法特有のその速度から、短髪女は回避も防御もかなわず<輝閃光矢>の直撃を受けた。
「キャアアアアア!!」
無防備な状態で魔法を受けた敵はその一撃で大きなダメージを負い、その場に倒れこんで気絶した。
「<輝閃光矢>の連発はきついけど、なんとかなりました……。だけど、わたしもしばらくは動けそうにないですね……」
そう言って、リミアは地面にペタリと座りこんだ。
「あとはお願いします、レインさん。どうか、サフィアさんを無事に助けてください……」