第70話 釣り合ってない
「お嬢ちゃん、一人?」
「それなら、俺達と遊ぼうぜ」
「興味ないわね」
おれがカフェの代金を支払って店の外に出ると、先に外に出ていたサフィアがナンパをされていた。そして、サフィアは相手の男どもを冷たくあしらっている。
「えー、いいじゃん、遊ぼうぜー」
「そうそう、俺達と良いことしようぜ」
「しつこいわね……」
見た感じ、相手の男どもは大したことはない。だから、サフィアの実力を考えれば心配はいらないのだが、ここは当然さっさと助けに入るべきだろう。まあ、助けるというか、普通に連れ出せばいいだけか。
「悪い、待たせたな、サフィア。ほら、行こうぜ」
「ええ、行きましょ」
「お、おい、ちょっと待て! まさか、その男が彼氏とかじゃねえよな!」
「だよなあ。どうみても、釣り合ってねえもんな。顔とか」
さっさとこの場を離れたかったのだが、ナンパ男共が失礼なことを言い放ってきた。いやいや、俺の顔はそんなに悪くないだろ。というか、そんな話をするなら、このナンパ男共のほうが顔は良くない。
それと、見た目に関して言うなら、おれが低いのではなく美少女であるサフィアが高すぎるのだ。あれでも、そう考えると釣り合ってないという部分については反論が出来ないな。
まあ、いいや。おれは紳士であり大人だからな。この程度は戯れ言だと思って聞き流してやろう、と思ったのだがそうはならなかった、サフィアが。
「あんた達ねえ、いい加減にしなさいよ!」
「えー、だって、本当の――」
「お、おい、ヤバいって!」
相手がビビるのも当然だろう。今のサフィアの身体からは魔力が放出されている。このままだと、このナンパ男共に魔法をぶっ放しかねない。
「あんた達、燃やされる前になにか言うことはあるかしら?」
「ご、ごめんなさい!」
「す、すいませんでしたーーー!!」
サフィアの態度に命の危険を感じたのか、ナンパ男共は脱兎のごとく逃げ出していった。
「まったく、失礼な奴らね!」
「それはそうだが、そんなに怒らなくてもいいんじゃないか? それとも、そんなにナンパが嫌だったのか?」
「そっちはそんなに気にしてないわよ。慣れてるし」
「慣れてるのか……」
まあ、モテる女であるサフィアなら、当然ナンパされたこともそれなりにあるのか。
「じゃあ、なんでそんなに怒ってるんだ?」
「そんなの、あなたがバカにされたからに決まってるでしょ!」
「……お、おう、そうか。ありがとな」
まさか、おれの見た目云々のためにそこまで怒ってくれていたとは思わなかったため、つい面食らってしまった。そして、サフィアは勢いでそう言ってしまい恥ずかしかったのか、頬が朱に染まり始めた。
「あーもー! ……はやく帰りましょ」
恥ずかしさゆえか唸り声を上げた後で、サフィアがそう言いながらスタスタと歩き出す。しかし、少し歩いた後でピタッと足を止め、おれに背を向けたまま声を発した。
「ついでに言っとくけど、あたしは別に……ないとか思ってないから」
「……すまん、よく聞こえなかった」
「だからっ! あたしは別にあなたがあたしと釣り合ってないとか思ってないから!」
「なっ!」
サフィアの思わぬ言葉におれはつい呆けて固まってしまった。すると、サフィアはくるっとこちらに振り返る。そして、真っ赤な顔をしておれのことをビシッと指さしながら口を開いた。
「言っておくけど、今のはあなたがかわいそうだから気を遣ってあげたのよ! だから、変な勘違いとかしないでよねっ!」
そう言い放った後、サフィアは再び前を向き、今度は速足でおれを置き去りにするかのごとく歩き出す。
こうして、おれとサフィアの初デートは終わりを迎えた。