第67話 演劇デート
今日は土曜日であり、おれにはとても大切な用事がある。その用事とは、サフィアとのデートだ!
もちろん、今回のデートでもおれは紳士として、早めに待ち合わせ場所に到着している。そして、そんなおれの元に一人の美少女が近づいてきた。
「ごめん、待たせちゃったかしら?」
「いや、二時間……、じゃなくて二分くらい前に来たから全然待ってない。大丈夫」
「それなら良かったわ。じゃあ、今日はこれに付き合ってね」
そう言って、サフィアはとある演劇のチケットをおれに見せてきた。つまり、先日の「付き合ってくれない?」は恋人的な意味ではなく演劇に付き合ってという意味である。……でも、なにかの間違いとかで恋人って意味になったりしない? 無理?
「付き合うのはいいけど、なんでおれなんだ? リミアと行ったほうが楽しいんじゃないか?」
「それは無理よ。だって、このチケットは男女で使うと割引になるペアチケットだもの」
いわゆるリア充専用アイテムというやつか。前世では思わず「爆発しろ!」とか言いたくなる存在だったが、とうとうおれもそれを言われる側になってしまったようだ。……せっかくなので、ちょっと気になったことも訊いておくか。
「そういうことなら、おれ以外でもいいんじゃないか。他の男友達とかは?」
「それも無理ね。あたし、男の友達はあなたしかいないもの」
「え、そうなの?」
「ええ、そうよ。これは自慢なんだけど、あたしってけっこうモテるの」
「『自慢なんだけど』って言い出す奴は初めて見たな」
「これくらい別にいいでしょ。事実なんだし」
おれが余計なツッコミを入れたせいか、サフィアは少し不満げになりながら話を続ける。
「それで、あたしの近くにいる男子はたいていは告白してくるのよ。で、それを振るんだけど、そういう相手と友達でい続けるのは気まずくて難しいでしょ?」
「……まあ、それはそうだろうな」
「だから、あたしには他の男友達はいないのよ。……そういう意味だと、未だに告白してこないあなたは珍しい存在ね。まあ、そのおかげで仲良く出来てるんだけど」
おれとしては、そうやって告白が出来る男子の心情が分からない。ダメ元や意識してもらうための告白だったりするのだろうか? ……え、そう思うならおれも告白しろって? それができれば苦労はしねエ!!
「ま、まあ、おれは硬派な男だからな。ゆえに、そう簡単に誰かに告白とかはしないんだよ」
「硬派ねえ……。それはおいといて、あたしとしてもあなたには告白されないほうがいいわね」
「え、なんで?」
「……それはだって、あなたとはこれからも仲良くしたいし……」
サフィアは頬を朱に染めて、手をもじもじさせながらそう言った。なにこの子可愛い、頑張って告白してみていい? いや、駄目だよ、そしたら振られちゃうじゃん。やはり、以前に考えたように恋愛は慎重にいくべきだな。
「ほら、開演時間に間に合わないと困るし、早く行きましょ」
先ほどの発言が恥ずかしくなったのか、サフィアは顔を隠すようにくるっと反対方向を向いて歩き出した。その動きでスカートがひらりと揺れ、おれは大事なことに気付いた。
今日は休日のお出かけということで、サフィアが制服ではなく私服を着ている。ふむ、水色を基調とした爽やかなワンピースか。普段の制服とは違いスカート丈は長めだがこれはこれで魅力的であり、当然のごとくサフィアには似合っている。
というわけで、久しぶりに師匠からの教えを実践すべく、おれは先を行くサフィアの隣へと追いついてから口を開いた。
「サフィア。その服とても似合ってて可愛いな」
「っ! そ、そう……。ふーん、ありがと」
サフィアは先ほどよりも頬を赤くしてそう答えた。あれ? 以前、制服姿を褒めたときと比べて照れている気がするな。制服と私服では感覚が違うのか、あるいはなにか心境の変化でもあったのか。
「……服といえば、あなたのその恰好はなんなの?」
「え? カッコよくない? 特に、この腕に巻いたシルバーとか」
「……分からないわね」
前回のリミアとのデートでは持ち合わせが無かったシルバーを買ったのだが、やはりサフィアにはこのセンスが分からなかったようだ。……まあ、そんな気はしていたので、もう少し無難な恰好にしておけば良かったかもしれない。やっぱ、着替えてきたほうがいいかなあ?
「……まあ、あなたがカッコイイと思うならいいんじゃないの。じゃあ、改めて行くわよ」
本心なのかおれに気遣ってくれたのかは分からないが、サフィアはそう言ってくれた。どちらにせよ、相変わらずサフィアは良い奴である。
こうして、おれとサフィアの初デートが始まった。