第63話 リミアと猫
「今日はとても疲れました……」
本日の魔法特訓を終え、帰る前にリミアがそうつぶやいた。<輝閃光矢>に続き、新しい魔法の習得に入ったせいで今日は特に疲れたのだろう。
「お疲れさん。なにか疲れを癒せる物があればいいんだけどな」
「そうですね……。あれ、そういえば、サフィアさんは?」
「ああ、あいつなら今日は少し用があるから先に女子寮に帰るって言ってたぞ」
「そうなんですね。気づきませんでした」
「リミアが魔法の特訓に集中してたから、サフィアはそれに気を遣っておれにだけそう言って帰ったからな。だから、サフィアのことはいいとして、今はリミアの癒しについてだ」
おれが癒しと聞いて思い浮かべるのはもちろん美少女なのだが、リミアの場合は当然違うだろう。では、女の子の癒しといえばなんだ? うーん、そうだなあ………………。
「可愛い物……。猫とか?」
「猫! いいですね!」
猫という言葉を聞いてリミアのテンションが明らかに上がった。どうやら、おれは正解を引けたようだ。だが、問題はここからである。
「どうやったら、猫と触れ合えるんだろうな?」
「そうですね。猫を飼っている知り合いとかもいませんし」
「だよなあ。さて、どうしたものか……」
「うう……。なんだか、猫の話をしたらすぐにでも触りたくなっちゃいました……」
これは参ったな。もしかすると、この世界にも猫カフェが存在するかもしれないが、今すぐとなると探している時間はない。だが、ここでおれにある名案が浮かんだ。
「リミア。ちょっと特殊な方法だが、猫と触れ合える方法があるにはあるぞ」
「本当ですか!?」
「ああ。おれにいい考えがある」
*****
魔法学院から場所を移して現在は男子寮のおれの部屋である。まあ、訓練場でやるわけにもいかないし、他に良い場所もないからな。
「それで、どうするんですか?」
「それなんだが、変身魔法を使おうと思ってな」
「変身魔法ですか?」
「ああ。おれが<変身>を使えば猫にだって変身できる」
「つまり、レインさんが言っていた特殊な方法って」
「そう。俺自身が猫になることだ」
現状、今すぐに猫と戯れるにはこれくらいしかないだろうからな。となると、残る問題はおれが変身した猫でもリミアが気にならないかどうかである。
「だから、普通の猫じゃなくて中身はおれなんだけど、リミアはそれでもいいか?」
「そうですね……。……はい、わたしはそれでも大丈夫です。ただ、ちょっと気になったことがあるので訊いてもいいですか?」
「なんだ?」
「変身魔法の仕組みがよく分からなくて……。自分と同じか大きい者に変身するのはまだ分かるんですけど、小さくなる場合って元々の身体はどうなるんですか?」
そのことか。おれも昔、気になって師匠に訊いたことがあるな。それに、自分で変身魔法を使えるようになったことで仕組みも体感で理解出来たし、それをそのまま説明すればいいだろう。
「まず、変身魔法を使うとどうして姿が変わるかなんだが、これは自分の身体の周囲に魔力で変身対象の姿、つまり魔力体を生成しているからなんだ」
「そうなんですね。でも、それだと……」
「ああ。これだと、自分より小さい者には変身出来ない。では、その場合はどうなっているのかだが、実は元々の身体を魔法で縮小しているんだ」
「縮小……ですか?」
「そう、縮小だ。自分の身体を魔法の効果で小さくしてその後はさっきと同様、自分の身体の周囲に魔力体を生成している。これが、自分より小さい者に変身できる理由だな」
「分かりました。説明してくれてありがとうございます」
リミアは頭を下げて礼を言う。そして、頭を上げると、そこには猫とはやく触れ合いたいと言わんばかりにうずうずしている表情があった。なので、おれはすぐに<変身>を発動して自分の姿を可愛い猫に変身させる。
「か、可愛いです!」
思わず「お前のほうが可愛いよ」と言いたくなるような台詞を、目を輝かせたリミアが言った。
「あ、あの、触ってもいいですか?」
ここで、「いいぞ」と発言することも可能なのだが、猫に変身した状態で喋ると猫感が薄れてリミアががっかりするかもしれないので、おれは頷くだけにしておいた。
「ありがとうございます!」
そう言って、リミアはおれ改め猫の頭や腹を撫で始めた。そして、夢中になってそうしているうちに猫がおれであることを忘れてしまったのか、猫を両手で掴んで抱き寄せた。
その結果、猫はリミアの胸に抱きかかえられる形となる。そうなると、当然リミアの大きな胸が猫の身体全体に当たった。そして、その状態のまま、リミアは再び猫の撫で撫でタイムに入る。
「ああ、幸せです……」
リミアはとても嬉しそうにそう言った。そして、リミアの胸に抱かれている猫、つまりおれもとても幸せである。おれ、次に転生したら美少女の家で飼われる猫になりたい。
その後も、リミアの膝に乗せられて撫でられるという、ある意味で膝枕な状態になったり、ベッドに横たわったリミアの胸に抱かれたりと、猫を満喫することでおれ達はお互いにとても幸せな時間を過ごすことが出来た。