第61話 とあるファンクラブ③
ときは放課後、場所はとあるファンクラブ。
「ああ……、今日もサフィア様は可愛かったなあ……」
「まったくだ。さすがは、炎の女王様だよ」
「俺達はサフィア様と一緒の魔法学院に入れて幸せだよなあ」
というわけで、ここはサフィア様ファンクラブである。どうやら、サフィアはいつの間にか一部の男子生徒から『炎の女王サフィア様』と呼ばれるようになっていたようだ。まあ、サフィアのことをそう呼びたい気持ちは分からないでもない。
「なあなあ、聞いてくれ! 昨日、俺がサフィア様を二人きりで遊びに誘ったら『興味ないわ』ってバッサリ切り捨てられたんだよ」
「マジかよ、羨ましいな! ちなみに、俺はお菓子を手渡ししたら『いらない』って返されたぞ。どうせから、投げ返して俺にぶつけて欲しかったぜ!」
「俺なんか、こないだ食堂で隣に座っていいか訊いたら、露骨に嫌そうな目で見られたからな。サフィア様にあの目で見られたらゾクゾクするぞ!」
……なにやら、リミア様ファンクラブのときとは違う意味で残念な会話が行われていた。どうやら、サフィアのファンには特殊な人間が多いようだ。
まあ、サフィアは昔から男子にモテていたがゆえに、自分に積極的に近づいている男子への当たりがきつくなってしまったのだろう。そして、そんなSっ気のあるサフィアに惹かれたMさんがここに集ってしまったということか。
「サフィア様って言えば、あいつはムカつくよなあ」
「ああ、あの異常者だろ」
「なんで、サフィア様はあんな奴と仲良くしてんだよ」
ふむ、やはりこのサフィア様ファンクラブでもおれは嫌われているらしい。まあ、サフィアみたいな美少女と仲良くしている男子がいたら妬まれるのは当然だな。
「きっと、あいつはサフィア様のパシリなんだろ」
「言い換えると、サフィア様のペットってことか?」
「なんだと!? な、なんて羨ましいんだ……」
……なんか妬まれてはいるようだが、その矢印はあらぬ方向を向いているようだ。というか、羨ましいかそれ? ……おれとしては、完全には否定できない気がしないでもない。
そう思っていたおれに対し、一人の男子が話しかけてきた。
「あれ? 君の顔には見覚えがないな」
「ああ、おれはここには初めて来たから」
おれの顔を見たこの男子だが、先ほどの男子たちのように怒り出したりもしない。それも当然、今回のおれも<変身>でモブっぽい男子の姿になっているからな。
さて、話しかけてくれたこの男子は他の人と比べてまともそうな人だな。このサフィア様ファンクラブはリミア様ファンクラブと同様の点があるので、それについて訊いてみよう。
「このファンクラブにサフィア……様の写真が無いのはやっぱり魔道具のせいなのか?」
「うん、そうだよ。写真を撮れる魔道具はとても高価だからね」
やはり、そういうことか。まあ、仮にそんな魔道具を手に入れたとしても、サフィアには写真どころかファンクラブの存在自体言いづらいだろう。
となると、その場合は隠し撮りということになり、サフィアのそんな写真があればもちろんおれが独占……、ではなくサフィアのために回収しおれが厳重に保管するところだが、そんなことにはならなそうだ。
ただ、隠し撮りという観点だと、サフィアの場合は気になることがあるな。
「仮に、写真を撮れる魔道具があったとしても、サフィア様の写真を撮るのは無理じゃないか? 下手したら、その魔道具を燃やされそうだ」
「うん、そうだね。というか、一度でいいからサフィア様に燃やされてみたいよね」
……さっきはまともそうな奴だと思ったが、こいつもけっこうヤバそうな奴だな。そんなことを考えていたおれに対し、このヤバそうな奴が別の話題を振ってきた。
「サフィア様って言えばさ。この間、僕はサフィア様に告白したんだけど――」
まあ、モテるサフィアが告白されているのは当然のことか。
「で、結果は?」
「もちろん、振られたよ。ついでに言うと、サフィア様の告白に成功した男子は今のところ一人もいない」
美少女と付き合うハードルは高いということがまた一つ証明されてしまったようだ。加えて、サフィアがおれの人生の二人目のメインヒロインであることを踏まえれば、当然の結果だろう。
「それで、話を戻すけど、告白したときにサフィア様に訊かれたんだよ。『試しに訊くけど、あんたはあたしのどこが好きなのよ?』ってね」
「で、お前はなんて答えたんだ?」
「正直に、その小さくて可愛い胸が好きって答えたよ。そうしたら、サフィア様にゴミクズを見るような目で見られたんだけど、あれは最高だったなあ……」
うっとりした目でそんなことを言われてしまった。もしかして、こいつはこのサフィア様ファンクラブで一番ヤバい奴なのでは? だがまあ、そんな気持ちは分からなくもないので、もしかするとおれもMさんなのかもしれない。
「あ、そうだ、他には――」
こうして、おれはサフィア様ファンクラブの人達からサフィアのSっ気のある話を聞くという時間を過ごした。
そして、その時間を終えた後、おれがサフィア様ファンクラブの会員、通称『女王の下僕』の一人になったのは当然の帰結だった。