第58話 下校デートなのでは?
生徒会での初仕事中、生徒の完全下校時刻を告げるベルが鳴った。
「さて、今日はそろそろ終わりだな。では、戸締りなどは私が――」
「わたくし達でやっておきますので、会長とバーンズアークさんは先に帰っていただいて大丈夫ですよ」
アイシス先輩の言葉をシェーナ先輩が遮ってそう言った。さらに、その言葉にブリッド先輩とエルフィ先輩も同意の意を示している。その姿を見て、アイシス先輩は少し悩んだようだが、皆の気持ちを汲むことに決めたようだ。
「では、私達はこれで失礼するよ。お疲れさま」
「はい、お疲れさまでした」
「お疲れさまです!」
「おおお疲れです」
こうして、おれとアイシス先輩は先に二人で生徒会室を出た。そして、少し歩いたところでアイシス先輩が口を開く。
「本来、一番上の立場である私が最後まで残るべきなのだが、どうやら気を遣ってくれたようだな」
「そういえば、アイシス先輩の負担を少しでも減らしたいって言ってましたよね。シェーナ先輩、というか三人とも良い人達ですね」
「そうだな。私は良い仲間に恵まれたよ」
こうして、おれ達は魔法学院を出た。完全下校時刻ということもあり、他の生徒はほとんどいないようだ。そして、おれはここで重要なことに気付いた。おれは今、アイシス先輩と二人きりで下校をしている。これはつまり、下校デートなのでは?
思い返せば、アイシス先輩との登校デートでは寮から魔法学院までの距離が近すぎてあまり時間がなく、デートっぽさがなかったからな。今回はその反省を活かして、なにかをしなければいけない。
そう思い、なにかデートっぽさを感じさせる物がないかと辺りを見回すと、ドリンクの移動販売を行っているキッチンカーみたいな物を発見した。よし、あれだ! おれは、そのキッチンカーを指さしながら、口を開く。
「アイシス先輩、良かったらドリンクでも飲みませんか?」
「あれは確か、最近流行っているナピオカドリンクというやつだな。せっかくだから、寄っていこうか」
おれの思惑とは違う理由ではあるが、アイシス先輩はおれの意見に同意してくれた。
「じゃあ、おれが買ってきますよ。なにがいいですか?」
「そうだな……。では、ミルクティーを頼む」
「分かりました」
おれは一人でキッチンカーに向かい、アイシス先輩に頼まれたミルクティーと自分用のストロベリードリンクを購入した。そして、近くにあったベンチにアイシス先輩と二人で座る。
そして、おれがミルクティーをアイシス先輩に渡すと、それを受け取ったアイシス先輩がおれにお金を差し出してきた。
「ありがとう。じゃあ、これが代金だ」
「いやいや、これくらいはいいですよ」
「いいから、受け取ってくれ。釣りはいらないから」
これがデートである以上、おれとしてはアイシス先輩に奢りたいところだが、残念ながらそうはいかない様子だ。リミアと同じく、アイシス先輩も金銭にはしっかりしたタイプのようだな。
「じゃあ、これは受け取っておきます。その代わり、次はおれが奢りますからね」
「……分かった。そうさせてもらうよ」
無事に、次の下校デートの約束を取り付けたところで、おれ達はナピオカドリンクを飲み始める。
「これは……、美味しいな」
「そうですね。流行るのも分かる気がします」
「これだと、他の味も気になるところだな」
「……あー、でもキッチンカーはもうどこかに行っちゃうみたいですね」
見ると、先ほどのキッチンカーが離れていくところだった。これでは、他のドリンクを買うことは出来ないが、おれがアイシス先輩のために出来ることはまだある。
「良かったら、おれのを飲みますか?」
「…………そういうのを男女でやるのは、あまり好ましくないのではないか? 確か、シェーナ君からそういう話を聞いた覚えがあるぞ」
「……あー、そういえばそうですね」
アイシス先輩に喜んでほしいという気持ちが先行して、その行動が間接なアレになることをすっかり忘れていた。おれとしては全然いいし、むしろ嬉しいのだが、アイシス先輩としてはそうではないだろう。
そう思ったおれに対し、アイシス先輩が予想外であり先輩らしくもある言葉を発した。
「だが、せっかくの厚意を無碍にするのも申し訳ないな。……君さえ良ければ、交換して飲もうか」
「そ、そういうことならおれは全然いいですよ」
こうして、おれ達は互いのドリンクを交換する。そして、元はおれのドリンクだったそれを飲んだアイシス先輩が口を開く。
「こちらも美味しいが、……やはり少々気恥ずかしいな」
アイシス先輩が頬を赤くしながらそう言った。こういうアイシス先輩の姿は初めて見たし、普段の姿とは全然違うその恥じらいは非常に可愛かった。
「君は飲まないのか?」
「あ、いえ、いただきます」
いかん、ついアイシス先輩に見惚れていてしまった。というわけで、おれも元はアイシス先輩のドリンクだったそれを飲む。だが、それが原因で味のほうはよく分からなかった。
だがまあ、こうしてアイシス先輩とデートっぽいやりとりも出来たし、アイシス先輩の可愛い姿も見れたので、今回の下校デートは成功と言っていいだろう。
それと、どこかからシェーナ先輩の「きゃあ~~~~~!!」」という声が聞こえてきた気がした。