第55話 予想外の質問
「実は、バーンズアークさんにお訊きしたいことがあるのですが、いくつか質問させていただいてよろしいでしょうか?」
ドキドキしているおれとは対照的に、落ち着き払ったシェーナ先輩がそう言った。
「いいですよ。なんですか?」
「ありがとうございます。ですが、もし答えづらいようでしたら、もちろん答えていただかなくて構いませんからね」
「分かりました」
さて、いったいどんな質問がくるのか。おれがやや身構えていると、そんなおれを興味深そうな目で見ながらシェーナ先輩が口を開いた。
「会長との出会いはどのような形でしたか?」
「……? アイシス先輩との出会いですか?」
「はい、よろしければ、お聞かせ願いたいのですが……」
ふむ。なにやら、予想外の質問が飛んできたな。まあ、別に答えづらいようなことじゃないから正直に答えればいいか。
「あれは確か、この魔法学院に入学してから数日経った放課後ですね。アイシス先輩に呼び出されて校舎裏に――」
「か、会長からですか!?」
先ほどまでは落ち着いていたシェーナ先輩らしからぬ、動揺した様子でそう問われた。だが、シェーナ先輩はすぐに冷静さを取り戻し、「コホン」と一つ咳払いをして話に戻った。
「……し、失礼しました。それで、貴方は(会長のことを)どう思ったのですか?」
そんな疑問を投げかけたシェーナ先輩の視線は、おれが付けているマントに注がれていた。そういえば、このマントは生徒会の人達がアイシス先輩のために作ったという話だし、このマントをおれがどう思ったかについて聞きたいということか。
「とてもカッコイイ(マントだ)と思いました」
「そうですよね! やはり、(会長は)とてもカッコイイですよね!」
シェーナ先輩は興奮気味な様子でそう言った。だが、すぐに落ち着きを取り戻し、申し訳なさそうな顔をして口を開く。
「……取り乱してしまい申し訳ありません。わたくしは会長に関する話だと、つい冷静さを欠いてしまうときがありまして……」
「そうなんですね。おれは別に気にしないので、シェーナ先輩の好きなように話してくれていいですよ」
「お気遣いありがとうございます。……では、お言葉に甘えてそうさせていただきますね」
そういえば、アイシス先輩が生徒会の皆は自分に対してやや妄信的なところがあるって言ってたなあ。ならば、そういう態度になってしまうのも当然のことだろう。
「……ちなみに、(会長のことを)どれくらいカッコイイと思ったのですか?」
「……そうですね。(このマントを)初めて見たとき、強く心を惹かれました。一目惚れと言えるくらいにはカッコよくて魅力的でしたね」
「ひ、一目惚れですか!?」
「はい、そうです。それで、おれは正直に(マントが)欲しいとアイシス先輩に言いました」
「まあっ!! (会長が)欲しいなんて大胆!! ですが、(会長に対し)殿方がそう思うのは自然なことですよね!!」
シェーナ先輩はこの話によほど興奮しているのか、テーブルに身を乗り出しておれの話を聞いていた。
「そ、それで、貴方のその熱い想いに対して会長はなんと答えたのですか!?」
「生徒会の皆に確認して問題なければ、(マントを)おれにあげようって言ってくれました」
「まあっ!! (会長自身を)あげるだなんて大胆!! けれど、そこまで言うということは、会長もバーンズアークさんのことをそれ程までに想われているのですね!!」
そう言った後、シェーナ先輩はソファーから立ち上がり、感謝の祈りを捧げるかのごとく両手を組んで声を発する。
「会長が誰を想おうと、本来わたくし達には関係ないのに気遣ってくださりありがとうございます!! ですが、会長のご慧眼に疑いの余地などなく、わたくし達はその意志を尊重しますよ!!」
もはや、シェーナ先輩はおれの存在を忘れたかのようにすごい興奮している。そして、その興奮のせいか、両手を頬にあて身悶えながら大声を上げた。
「それにしても、異性の影などこれまでまったくなかった会長に恋人が!! きゃあ~~~~~!!」
いったいどこから恋人が出てきたんだろう? まあ、シェーナ先輩は異様に興奮しているし、そのせいで本人もよく分からないことを口走っているのかもしれない。
それから数分後、シェーナ先輩はソファーに座り直し、気を落ち着かせるように紅茶を飲んでいた。そして、あごに手をあてながら、ブツブツと小さな声で独り言を始める。
「そういえば、会長からマントの件はお聞きしましたが、恋人に関してはなにも聞いていませんね。……おそらく、さすがの会長でもそれについては恥ずかしくて言い出しづらかったんでしょう。ならば、わたくしがすべきはその想いをサポートすることですね」
その後、シェーナ先輩は真剣な眼差しでおれのほうを見た。
「本日は色々とお話いただきありがとうございました。それで、最後に一つだけお願いしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「なんですか?」
「バーンズアークさん。もし、貴方さえ良ければ、生徒会に入ってくれませんか?」