第52話 美少女達の手料理
「うーん、なんか思っていたより楽しくないわね。お宝とか全然手に入らないし」
ダンジョンに入ってから数時間ほど経過し、サフィアがそうぼやいた。まあ、仮にこれがゲームであれば当然プレイヤーが攻略するまでお宝は残っている。だが、残念ながらこれはゲームではない。
おれ達は言ってみればこのダンジョンに遊びに来たような物だからな。つまりこれは、遊びであってもゲームではないので、そう都合よくはいかないようだ。
「まあ、めぼしい物はすでに騎士団が回収ずみなんだろう」
「そうですね。もっと下のほうまで行けば違うかもしれませんが……」
リミアは不安げな声でそう言った。まあ、このダンジョンに入った当初から怖そうにしていたからな。そして、そのおかげで今もリミアはおれの左腕に抱きついているので、おれとしてはもっとこのダンジョンにいたい気分である。
そんなことを言うとおれのことを不埒な奴だと思う人もいるだろうが、これは人間の三大欲求が原因なので仕方がない。そして、その三つの欲求のうちに一つが気になってきた。
「二人とも腹が減ったりしてないか? おれは減ったんだが……」
「確かに、時間的にはそろそろお昼ですしね」
「じゃあ、いったん休憩にしよっか。あたしも少しお腹が空いてるし」
ということで、おれ達は昼休憩を取ることにした。だが、そこでおれは一つの問題に気付く。
「そういえば、昼ご飯をどうするかなにも考えてなかったな」
「そういうことなら、わたしは一応お弁当を多めに作ってきましたよ」
「あたしも軽い物だけど、全員分作ってきたわ」
「え? じゃあ、もしかして貰っていいのか?」
「はい、いいですよ」
「ええ、もちろんいいわ」
おお、マジか! まさか、こんなところで美少女達の手料理が食べられるとは思っていなかった。そして、そんな美少女達を地べたに座らせるという非紳士的な行動はできないので、おれは魔力障壁を地面に展開し三人でそこに座る。
「お弁当と言ってもあまり大した物じゃないんですが……」
そう言って、リミアはお弁当を広げた。そこには、ソーセージ・卵焼き・サラダ・主食となるパンなどが並んでいる。先ほど、リミアは大したことはないと言っていたが、おれに言わせれば充分に大した物であり、つい「大した奴だ」と言いたくなってしまう。
「あたしはこれよ」
サフィアが出してきたのはサンドイッチだった。具材としては、卵・ハム・チーズなどであり、本人が先ほど言っていたように軽食である。だが、おれからすれば充分に立派な料理だった。
そして、リミアもサフィアも遠慮なく食べていいと言ってくれたのでありがたく頂くことにする。まずは、リミアのお弁当からだ。
「おお、美味い!」
「ほ、本当ですか?」
「ああ、すごい美味いぞ」
「ありがとうございます……」
リミアは嬉しそうな表情をして喜びを噛みしめるようにそう言った。まあ、料理の出来ないおれにはよく分からないが、他人に料理を褒められるのはやはり嬉しいのだろう。
もちろん、おれはお世辞で美味いと言ったのではなくどのおかずも本当に美味い。その美味さを分かりやすく表現するならば……。
「これなら、リミアは良いお嫁さんになれるな」
「お、お嫁さん!? ……そ、その、あ、ありがとうございます……」
リミアは真っ赤に染まったその顔を隠すように俯いてしまった。その様は非常に可愛らしいので、是非とも将来はおれのお嫁さんになってほしい。なんなら、将来と言わず今すぐにでも構わない。まあ、この世界でも十八じゃないと結婚出来ないんだが。
「……ねえ、レイン。あたしのは食べないの?」
サフィアがやや口を尖らせながらそう言った。なぜ不満げなのかと思ったが、せっかく全員分作ってきてくれたのに、それをおれが食べていないのが原因なのだろう。なので、おれはすぐにサフィアのサンドイッチを口にして、その感想も素直に口にする。
「お前のもすごい美味いぞ。サフィアも良いお嫁さんになれるな」
「……そ、そう。……ふーん、ありがと」
サフィアは頬を朱に染めながらそっぽを向き、気恥ずかしそうに自分のツインテールを右手の指でくるくるしていた。その様は非常に可愛らしいので、是非とも将来はおれのお嫁さんになってほしい。
ここが日本であれば無理だが、この世界では重婚が認められているはずだ。なので、この二人におれのお嫁さんになってもらうのは可能である。ただ、この『可能』が『理論上は可能です』という意味にならないのを願うばかりだ。
こうしておれは、美少女でありおれの将来のお嫁さんでもあるリミアとサフィアの手料理で、三大欲求の一つである食欲を満たすことが出来た。
なので、ここは流れにのって三大欲求の残り一つである睡眠欲を三人で、ゲフンゴフンなんでもないです。さすがに、自重しようと思いましたまる。