第46話 慎重にいくべきだ
おれがリミアとサフィアの頭を撫でたい……、ではなく、褒めるときは二人のために積極的に頭を撫でてあげようと決意した数日後。
今日も今日とておれ達三人は放課後に魔法学院の訓練場で魔法の特訓を行っていた。しかし、ここ最近の二人、特にリミアの頑張りはすごいな。これはやはり、先日の誘拐事件の影響だろう。
まあ、いざとなればリミアはもちろん、サフィアもおれが守ってあげるつもりだ。とはいえ、なにかあったときのために強くなるに越したことはないからな。特に、リミアの将来の目標は騎士団に入ることだし、そのためにはやはり強さが必要だ。
あと、リミアと言えば、なんか最近のリミアはおれに対する態度が以前と少し違う気がするんだよな。例えば、たまにおれの顔をチラチラ見ている気がするし、頭を撫でたときもサフィアと比べてかなり嬉しそうにしていた気がする。
……も、もしかしてリミアっておれのことが……。い、いや、落ち着け、おれ。落ち着いて前世のことを思い出すんだ。
そう、前世の学校生活でも、ちょっとしたことで美少女が自分のことを好きだと勘違いし、告白した男子が振られるということがよくあった。特に、学校一の美少女なんかは、そんな勘違い男子達の屍の山を築いていた。
……え、おれですか? おれは告白したことないから、もちろん振られたこともない。言ってみれば、恋愛においておれは無敗の最弱だ。なんかカッコイイよね、この呼び方。……まあ、告白したことないのは、単にそんな勇気がなかったんだけど。
さて、真面目な話、リミアはおれのことを異性としてどう思っているのだろう?
これが魔法の話であれば、「おれの魔法力は五十三万です。ですがもちろん、フルパワーであなたと戦う気はありませんからご心配なく……」と言えるほどの強さがおれにはある。
だが、こと恋愛においては、「恋愛力……、たったの五か……。ゴミめ……」と言われてしまうほどの弱さだ。……下手をすると、五もないかもしれない。
そんなおれでは、リミアのおれに対する気持ちなど分かるはずもない。では、……仮に、仮にだ。おれがリミアに告白をしたらどうなる? 上手くいけばいいが、もしリミアがおれのことをなんとも思っていなかった場合、
「……え? わたしのことが好き? ……すいません、レインさんは良い人だとは思いますが、わたしのほうにそういう感情は一切ないです。……あ、もしかして、わたしが優しくて可愛い美少女だから変な勘違いをさせてしまいましたか? すいません、これからは気を付けますね。レインさん、……いいえ、バーンズアークさん」
……あばばばばばば。も、もし、リミアにこんなことを言われたら、おれがこの先生きのこるにはどうしたらいいか分からない。
……そ、そうだ。世の中には単純接触効果というものがある。これは確か、相手と繰り返し会うことで好意を抱くようになる心理効果とかそういうやつだ。そして、リミアと一番近い位置にいる男子は間違いなくおれだ。
この効果と状況を踏まえ、時間をかけて慎重にいくべきだ。具体的には、レディ・パーフェクトリーと言えるくらいまで待つ慎重さでいこう。
こうして、おれはリミアとの関係性について結論をつけた。その後、リミアとサフィアの魔法の特訓を後方彼氏面で見守る体勢に入ったおれだが、この訓練場に二人の人影が入ってくるのに気付いた。
「アイシス先輩とルミル先生じゃないですか! どうかしたんですか?」
「なに、少し時間があったから様子を見に来たんだよ」
「先生もそう思って来てみたら~、途中でアイシスさんとばったり会ったので一緒に来たんです~」
そういうことか。二人とも忙しいだろうにわざわざ来てくれるとか、良い先輩であり良い先生だ。
……しかし、あれだな。七星魔術師と八星魔術師の二人がこうして並んでいると、やはり迫力がすごいな。どこに迫力を感じたかは言わないけど、数だけ言うと四つですね。
そんなことを考え、ついその迫力を感じる部分に目がいってしまうおれの横まで来て、アイシス先輩とルミル先生が会話を始める。
「相変わらず励んでいるようだが、なにか妙だな……」
「なにがですか~?」
「以前と比べて、練習にかなり熱が入っている気がします。特に、アトレーヌのほうは」
「……言われてみれば~、そんな気がしますね~。確かに~、リミアさんはとても真面目な生徒ですが、それだけではないような~。レイン君~、リミアさんになにかあったんですか~?」
「えーっと、それはですね……」
……この質問はどうしようか? 誘拐事件のことを勝手に話していいとは思えない。かといって、なにもないと言ってしまうのもどうかという話だ。まあ、当事者に訊いてみればいいか。
「すいません、ちょっと待っててくださいね」
そう言って、おれはリミア達のほうへと向かう。しかし、特訓風景を少し見ただけで違いに気付くとかアイシス先輩はすごいな。いや、それだけ、他人を気にかけているということか。
「二人ともちょっといいか?」
「はい、なんですか?」
「なにかしら?」
「この前の誘拐事件のことをアイシス先輩やルミル先生に話しても大丈夫か?」
「わたしはこうして無事に助けてもらえたのでもう平気ですし、話しても大丈夫ですよ」
「ミアが良いんだったら、あたしもいいわよ」
無事に二人の許可は取れたので、いったん特訓を中断しておれ達はアイシス先輩達のところに戻る。そして、おれが中心になって誘拐事件の説明を開始した。
46話を読んで頂きありがとうございました。
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それで、更新ペースに関してですが、明日からしばらくは毎日更新にしようと思います。できれば、第2章の完結までは頑張りたいです。
以上です、これからも本作をよろしくお願いします。