第40話 光の誓い
絶対に負けられない戦いから一夜が明けた朝。
しかし、思い返すと昨晩は本当に危ない戦いだった。ルミル神からの天啓によって手に入れたおれの強靱な精神力(物理)がなければ、敗北していただろう。
さて、現在の状況だが、目を覚ましたおれに対し、リミアはまだ眠っていた。昨日の誘拐の件でリミアは精神的にかなり疲れただろうし、このまま寝かしておいてあげよう。
そう思い、一人で外出したおれは二人分の朝食と、他に欲しい物があったのでそれを買い、自室へと戻った。すると、リミアは目を覚ましており、おれのベッドに座っていた。
けど、なんかリミアの様子が少しおかしい気がするな。なんか、ぼーっとしているし、顔も赤くなっている。寝起きだからだろうか? もしくは、昨日は色々とあったからその影響か?
まあ、なんにせよ確認しておいたほうがいいと思い、おれはリミアの顔をのぞき込んで声をかける。
「リミア、調子でも悪いのか?」
「っ! ……べ、別に大丈夫です」
リミアはおれの顔を見ると、すでに赤かった顔をさらに赤くし、目を逸らしながらそう答えた。……おれ、なにかしたかなあ? 昨晩はリミアになにもせずに済んだはずなんだが……。
さて、どうするか? リミアの先ほどの反応は明らかになにかある気がするが、女の子には男に言えないようなこともあるだろう。もし必要があれば、リミアは素直におれのことを頼ってくれるだろうし、ここは下手に詮索しないほうがリミアのためか。
「……まあ、大丈夫ならいいや。それより、寝起きでお腹が空いてるだろ? パンとか買ってきたから一緒に食べよう。はい、これリミアの分」
「あ、はい、ありがとうございます」
しかし、リミアはおれのほうをちゃんと見ずにパンを受け取ろうとしたためか、パンではなくおれの手を掴んだ。そして、そのことに気付いたリミアは勢いよく自分の手を引き、再び顔を赤くした。
「す、すいません!」
「いや、別に大丈夫だけど……。じゃあ、リミアの分はここに置いとくな」
おれはリミアの横にリミア用の朝食を置き、自分の分を食べ始めた。食べながら、ちらりとリミアのほうに目をやると、ちゃんとリミアも食べ始めていたので、体調が悪くて食欲が無いとかではなさそうだ。
そして、朝食を食べ終わってからしばしの時間が経った。リミアは先ほどと比べて落ち着いており、今は特に顔も赤くないので心配はなさそうだ。
リミアが帰る前に渡しておきたい物があるし、それなら今がチャンスだろう。
「リミア、帰る前にちょっといいか?」
「はい、なんですか?」
「実はリミアに渡したい物があってさ。これなんだけど」
「これは……、指輪ですか? でも、それにしては少しサイズが大きい気がしますが……」
リミアはおれの手のひらの上にある、やや大きさの異なる透明な二つのリングを見てそう言った。
「これは盟約の指輪って言ってな。おれの親友のミハエルっていう奴が作った魔道具なんだ」
「魔道具なんですね。どういう効果なんですか?」
「話を分かりやすくするために、先に体内の魔力について説明するぞ。体内にある魔力は基本的に安定してるけど、自身に危険が及んだりするとそれが乱れるんだ。例えば、戦闘で大きな傷を負ったりとか、……その、思い出させて悪いけど、リミアが誘拐された瞬間とかは魔力が乱れてたはずなんだ」
「そうなんですね。知らなかったです」
誘拐の話を出したらまた不安な気持ちにさせるかと思ったが、見た感じリミアは大丈夫そうだった。一晩経って、気持ちの整理が付いたのかもしれない。それなら、話を続けていいだろう。
「それで、この魔道具なんだが、こいつは魔力を送受信する機能を持ってるんだ。この小さいほうが送信側で送魔の指輪、大きいほうが受信側で受魔の指輪っていう別名がある。で、送魔の指輪のほうはさっき説明した体内の魔力の乱れを察知して、それを受魔の指輪に伝える性能を持っている」
「……そんなことができるなんて、すごい魔道具ですね」
「しかも、それで終わりじゃないぞ。その際に、受魔の指輪には送魔の指輪の座標も送られるんだ。だから、受魔の指輪の持ち主は送魔の指輪の持ち主に危険が及んだときに、その相手がどこにいるかを知ることができる」
こうして説明していると改めて思うが、やはりこの指輪はすごくカッコイイ魔道具だ。
だってほら、アニメや漫画で味方キャラがピンチに陥りもはや絶体絶命となったそのとき、仲間の強キャラが登場してカッコよくその窮地を救うシーンってあるけどさ。
この魔道具はあのカッコイイシーンを自らの手で行うことができるんだよ。まったく、こんなにすごくてカッコイイ魔道具を作るなんて、やはりミハエルはハイセンスを持った天才だ。
ただ、ミハエルと話した通り、この魔道具は発動の機会が無いほうがいい。けど、また昨晩のような出来事がリミアの身に起きない保証はどこにもない。ならば、おれはリミアのために万が一に備えておいてあげたい。
「リミア。もしかすると、リミアはまた昨晩のように危険な目に遭うかもしれない。だから、リミアさえ良ければ、この指輪を受け取ってくれないか?」
「でも、それだとまた迷惑を……。いえ、そうじゃないですよね。ぜひ、その指輪を受け取らせてください。あ、でも、これって相当高い指輪ですよね?」
「お金のことなら気にしなくていいぞ。ミハエルに相談したら、ありがたいことに実質タダみたいな方法で譲って貰えたからな」
「そうなんですね。では、ありがたくいただきます」
良かった。無事、リミアに盟約の指輪を受け取ってもらうことができた。これで、もしものときがあっても、おれが守ってあげられる。
……あ、そうだ。説明が足りない部分があったな。まだ、いくつかあるんだが、今は必要なことだけ説明すればいいだろう。
「その指輪、少しサイズが大きいけど、付けた指に合わせてサイズが変化する機能もあるから、どの指にでも付けられるからな。ただ、ミハエルが言うには、利き手とは反対に付けたほうが良いみたいだ」
「それなら、左手ってことですね……」
そう言ったあと、リミアは盟約の指輪をじっと見つめてしばし考え始めた。その後、リミアは頬を朱に染めながら、おれに問いかけてきた。
「…………ちなみに、レインさんはどの指に付けるんですか?」
「おれはどこでもいいんだけど……。まあ、せっかくだから同じ指に付けようか。リミアはどの指にしたいとかあるか?」
「……そういうことなら、その、…………この指でも……いいですか?」
リミアは先ほどよりもさらに頬を赤くして、自分の右手の人差し指で左手の薬指を指し示した。
あれ? なんかおれの前世では、男女が左手の薬指に指輪を付けるのにはなにか意味があったような気がする。……駄目だ。なんか前世のおれには縁もゆかりも無いようなことだった気がするが、そのせいか詳細は記憶にない。
まあ、今すぐ思い出す必要もないか。とりあえずそのことはおいておき、リミアの問いに答えよう。
「ああ、左手の薬指だな。もちろんいいぞ」
「……では、その、……せっかくなので、付けてもらってもいいですか?」
「分かった」
おれはリミアの左手を取り、その細くてきれいな薬指に盟約の指輪を付ける。すると、盟約の指輪はその効果を発動し、リミアの左手薬指にピタリとはまるようにその形状を変化させる。
その後、今度はリミアがおれの左手を取り、その薬指にもう一つの盟約の指輪を付けた。当然、おれのほうの指輪も先ほどと同様にその形状を変化させた。
「……え? 指輪が光を……?」
おれ達が互いに指輪を付け終わった後、リミアの言葉の通りに二つの盟約の指輪が光を放ち始めた。そして、元々は透明だった盟約の指輪は、リミアが使う光魔法のように金色に輝く指輪へと変化した。
「ああ、これも盟約の指輪の効果の一つ……、というよりは本来の効果を発動し始めた証だな。リミアが付けた送魔の指輪がリミアの魔力に反応して色が変わり、それに伴っておれのほうの受魔の指輪も同じ色になったんだ」
「わたしの魔力に反応したってことは、他の人が付けると違う色になるんですか?」
「ああ、魔力の色が似ていることはあっても、一人一人微妙に違うからな。だから、この指輪は世界で一つ、いや、二つしか無いおれ達だけの唯一無二の指輪だよ」
「わたし達だけ…………。なんだか、とても素敵な指輪ですね……」
おれは左手を前に突き出して盟約の指輪をリミアに見せながら、誓いを立てるようにリミアに語りかける。
「これからは、なにがあってもおれがリミアを守るよ」
「……はい、わたしのことをよろしくお願いします。レインさん」
そう言ったあと、リミアは左手を掲げ、恍惚とした表情で光り輝く盟約の指輪を見つめていた。
そのときのリミアは、まるで苦難の末に最愛の人と結ばれた女の子のように、とてもきれいで幸せそうな顔をしていた。
40話を読んで頂きありがとうございました。
これで、第1章は完結になります。
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