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第39話 神からの天啓

 誘拐犯との戦いを終えた夜。おれは再び絶対に負けられない戦いを強いられていた。


 くそっ、どちらも絶対に負けられない戦いなのに、その難易度が段違いだ。


「どんな強者にも弱点というのがあるものだ……」と『サスケェ!』の兄が言っていたが、まさに伝説の三忍の一人と同様にその弱点を突かれてしまった。しかも、今回は敵を倒すのではなく、仲間を守るための戦いだから厄介極まりない。


 というか、こんなことを考えている場合じゃない! おれはいったいどうすればいいんだ!?


 まず、簡単に思いつく方法としては、<睡眠(ソムヌラ)>を使うことだ。それを使って強制的に眠ってしまえば、なんの問題も起こらない。


 だが、この状況でおれが先に眠るのはどうかと思うし、かといってその魔法を使って誘拐されたリミアを眠らせるのも忍びない。ゆえに、これは最終手段だ。


 では、それ以外の方法だが、…………………………やばい、なにも思いつかない。くそっ、おれの頭脳、役にたたねえ!


 ど、ど、ど、どうする? ……そ、そうだ。こうなったら神頼みだ。


 助けて、おれの神様。そう、ルミルの民であるおれの神様、ルミル先生!


 ルミル先生に祈りを捧げることで、ルミル先生からのお告げがおれの脳内に流れ込んでくる。


『レイン君、駄目ですよ~。もし~、リミアさんにえっちなことをしたら~、先生が叱りますからね~。えっちなことはめっ! ですからね~。めっ!』


 えっ、マジで!? ここで、おれの理性が暴走したらルミル先生に「めっ!」してもらえるの!? それ、完全にご褒美じゃん!! やったぜ!!


 いや、やったぜじゃねえよ! よくねえよ! これじゃ逆効果じゃねえか!


 い、いや、まだだ。信じる者は救われる。もう一度だ。もう一度、ルミル先生に祈りを捧げるんだ。


 すると、今度はルミル先生との授業の風景がおれの脳内に流れ込んできた。え、なにこれ? なんか、走馬灯っぽくない?


 え、なに、もしかしてもうすぐ死ぬの、おれ? この後、おれの理性が暴走してやらかした結果、社会的に死ぬとかそういうこと?


 ……!! そうか、そういうことか!!


 たった今、おれにルミル先生からの天啓が下った。そう、ルミル先生は今までの授業の中で、この状況に対する完璧な解決策をすでにおれに示してくれていたのだ。


 ありがとう、ルミル先生! いや、ルミル神!


 というわけで、おれはルミル神が授けてくれた解決策を実行に移すべく、とある魔法を自分に発動した。


 その魔法とは、<麻痺(パリジス)>。


 その魔法の効果により、おれの手足は麻痺して動かせなくなった。


 よし、これでもう大丈夫だ。この後、おれの理性が暴走したとしても、おれの手足は物理的に動かない。文字通り、手も足も出ない状態だ。よって、なにも問題はない。


 こうして安全が確保されたことで、おれの精神にも余裕が出てきた。さらにその影響で、おれの理性も次第に落ち着きを取り戻してくるのを感じる。そして、おれがだいぶ落ち着いたころ、リミアが話しかけてきた。


「……あの、レインさん、まだ起きてますか?」


「起きてるよ。どうした?」


「……あの、改めて今日はありがとうございました」


「ああ、いや、いいって別に。お礼ならもう言われたし」


「……でも――」


 また、「迷惑をかけた」とでも言いそうなリミアの言葉をおれは遮る。


「リミアはそういうの気にしすぎだと思うぞ」


「だけど、わたしは魔法学院に入ってからもレインさんに頼りっぱなしですし」


「別におれとしてはそれでいいんだよ。だって、おれとしては頼られるのは迷惑どころかむしろ嬉しかったり、楽しかったりするし」


 リミアはおれの言葉の意味が理解出来なかったのか、顔を上げて不思議そうな表情でおれを見た。


「どうしてなんですか?」


「……んー、おれって昔は誰にも頼られないような人間だったからさ。その反動なのか、人に頼られるのってがおれとしてはすごい嬉しいんだ。あとは、その、正直な話、今日のおれは自分のことをカッコイイとか思って楽しんでたときもあったんだよ。ごめんな、リミアは大変な目に遭ってたのにそんなこと考えてて」


「いえ、別に平気です! だって、その………………」


「その?」


「……今日のレインさんはその……、カッコよかったですよ」


 リミアは頬を朱に染めながら、恥ずかしそうにおれを見てそう言った。そんな顔をしてこちらを見られると、おれとしても恥ずかしさが勝る。もちろん、そう言ってくれた嬉しさもあるけれど。


「……ま、まあ、だからあれだ、リミア。おれとしては頼ってもらえて全然OKだから、負い目とか感じなくていいからな」


「……でも、ずっと頼りきりというわけにもいかないので、わたしも早く強くなれるように頑張りますね。だけど、そういうことなら、お言葉に甘えてもうしばらくは頼らせてもらいます。……その、今夜も」


 そう言って、リミアはまたおれの胸のあたりに顔をうずめてきた。だいぶ安心して落ち着いたようだし、もうすぐリミアは眠りにつくだろう。


 あとはあれだよな。こういう状況だったら、おれのほうから優しく抱きしめてあげると、もっとリミアは安心できそうな気がするし、おれのほうはカッコイイんだろうなあ。


 しかし、残念ながらおれの両手は麻痺していて動かないのでそんなことは出来ない。こんなに可愛い女の子とこんなに良い雰囲気になってるのに、なんでおれはこんなにカッコ悪い真似をしているんだろう……。


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