第35話 サフィアの戦い
サフィアは敵と激しい魔法戦闘を繰り広げていた。
「くらいなさい! <火炎弾>!」
「くらわねえよ! <火炎弾>!」
互いの魔法がぶつかり合い、その力を相殺して消滅していく。炎魔法の威力では互いに五分と五分といった状況だ。
「これならどう! <烈火炎弾>!」
「甘え! <烈火炎弾>!」
先ほどと同様に互いの魔法が相殺して消滅する。両者の主力である炎魔法の威力が拮抗しているこの状況では簡単に決着が付かない。
ゆえに、本来であれば相手の魔力や体力が尽きるのを待つ持久戦となるか、もしくは策を巡らして相手に魔法をくぐりぬけ隙を突き、自分の強力な魔法をぶつけるかが勝負の分かれ目となるはずである。
だが、この戦闘ではそのどちらにもならない。この戦闘において、押されているのはサフィアのほうだった。
「今だァ! <疾風刃>!」
「っ!!」
サフィアは敵が放った風の刃を避けきれず、左肩に傷を負った。
炎魔法の威力こそ互角だが、現状ではそれしか使えないサフィアに対し、敵のほうは複数種類の魔法を使うことが出来る。さらに、サフィアと敵では実戦経験に大きな差があるのに加え、サフィアは攻撃力こそ高いが防御のほうは不得手だ。
そのため、敵はサフィアの魔法を自分の魔法で相殺したり、魔力障壁を展開して防ぐことが出来るが、サフィアにはまだそこまでの技術はない。その戦闘能力に差により、サフィアはわずかだが確実に傷を負い、戦闘が続けば続くほどその戦況は悪化していった。
敵もこれまでの状況からそのことを理解したのか、一旦戦闘を中断してサフィアに話しかける。
「おい、嬢ちゃん、もうやめときな。嬢ちゃんじゃオレ様に勝ち目がないのは分かってんだろ」
「バカ言わないでよ。勝負はまだまだこれからでしょ」
「だがなあ……。オレ様としては出来れば、これ以上嬢ちゃんを傷つけたくはねえんだよなあ」
「あら、女の子を誘拐するような悪党のくせにずいぶんとお優しい台詞を言うのね」
サフィアのその言葉を聞いた敵は下卑た笑いを浮かべた。
「だってよう、この後オレ様は嬢ちゃんで色々と楽しませてもらうからなあ。それなら、なるべく身体は傷つけたくねえだろお」
「この……ゲスが!! <烈火炎弾>!!」
「おっと! <烈火炎弾>!」
怒りの炎を強めたサフィアの魔法が戦闘再開の口火を切った。だが、当然怒っただけでは戦況は好転しない。魔法の打ち合いをしながら、サフィアは一つの考えを頭に浮かべた。
(このままじゃ勝ち目がない。それなら、まだ成功したことはないけど、一か八かアレを使うしかないわね。だけど、そのためには時間を稼がなきゃ)
「<炎壁>!」
サフィアが発動した魔法によって巨大な炎の壁が部屋の中央一面に発生する。そして、その壁により自身と敵を分断し互いに姿が見えなくなった。
「なんだあ、こりゃ? まさか、今のうちに逃げるつもりかあ? させねえよ、<水壁>!」
敵は炎の壁のすぐ隣に巨大な水の壁を生成し、炎の壁を消滅させようとする。その状況を見据えながら、サフィアはある魔法の魔法陣を描きつつ願う。
(お願い神様……。ミアを、あたしの大切な友達を助けるために力を貸してください……)
その願いが神様に届いたのか、それともサフィアの日々の鍛錬が今この瞬間に実を結んだのか、それは誰にも分からない。だが、サフィアの右手に描かれた魔法陣から巨大な炎が浮かび上がった。
しかし、その状況を知らない敵は再び下卑た笑いを浮かべた。
「さーて、そろそろ炎の壁も消えるなあ。嬢ちゃんがビビって動けずにいてくれりゃあいいんだが」
<水壁>の影響で炎の壁はとうとう消滅し、分断されていた互いの姿が見えるようになった。
「おっ、どうやら逃げられな……、な、なんだ、それは……!? 上級攻撃魔法の<灼熱火炎弾>か!? いや、違う……。なんだ!? なんなんだ、その巨大な炎の鳥はあ!?」
敵が露骨に狼狽える姿を見て、サフィアは不敵に笑った。
「冥土の土産に教えてあげるわ。真の強者が発動する<灼熱火炎弾>はその姿を変えるの。そして、その圧倒的な破壊力と気高い姿から古代より異界ではこう呼ぶわ……」
サフィアは右手を前に突き出し、力強くその名前と魔法を放った。
「<神聖不死鳥>!!」
「くっそおおおおお!! <水壁>!!」
敵は苦し紛れに水魔法を発動し、さらに魔力障壁を展開する。だが、神聖なる不死鳥はその水の壁と魔力障壁を飲み込み、一瞬で蒸発させる。
そして、その気高い炎は衰えるどころか、サフィアの想いに呼応するかのように勢いを増し、敵をも飲み込んで燃やし尽くした。
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