第33話 突入と対敵
リミアの救出のために、おれは敵のアジトである建物のドアノブに手をかけて引く。
すると、当然のようにドアは開かなかった。まあ、そりゃ鍵がかかってるよな。
「……ねえ、鍵はどうするの?」
「いや、どうするもなにも……」
おれは身体強化を発動してもう一度ドアノブを引いた。すると、今度はバキィという音を立てながらドアが開いた。
「ふむ、どうやら立て付けが悪くて開かなかったみたいだな」
「いや、どう見ても壊してるじゃない!」
「もし、そうだとしても別にいいだろ。悪党の家なんだしこれくらい」
仮に、これが一般人の家で、ここにいるのがサフィアではなく純子という名の女の子だったら、「ドアはお前が直しておけ」と言うところだが、今回はそのどちらにも該当しなかった。
そして、無事に開いたドアからおれ達は中に入る。
「誰もいないわね」
「地下にいるみたいだ。だから、どこかに地下への入り口があるはずだが……」
さて、どこだ? ………………ふむ、あそこが怪しいな。
おれが怪しいと睨んだ床を調べると、隠れていた取っ手を発見した。そして、その取っ手を掴んで上に引くと、床の下から階段が出てきた。よし、ここで当たりのようだな。
「ねえ、今どうやって発見したの?」
「おれはこういう隠し通路みたいなカッコイイ物には鼻がきくんだよ」
「あなたはまたおかしなことを……」
早々に隠し通路を発見したのに、なぜかサフィアには呆れられてしまった。
しかし、今にして思えば、おれがあのカッコイイ紅き闇の館を王都に来てあっさり発見したのもこれが理由かもしれない。あの店はけっこう分かりづらいところにあるからなあ。まあ、そこがカッコイイんだが。
その後、おれ達は発見した隠し通路にある階段を慎重に降りていく。だが、特に罠とかは仕掛けられていないようだ。
しかし、不謹慎だがこういう場にくると少しテンションが上がってきて、ついカッコつけたくなるな。まあ、リミアの魔力は安定しているし、その近くに誰もいないから安全は確認できている。なら、少しくらいはカッコつけても許されるだろう。
階段を降りきると小さな部屋があった。そして、部屋の奥にはドアがあり、その先に敵が一人いるのが魔力感知で分かった。
「サフィア、この先に敵が一人いる。リミアともう一人の敵はもう少し下だな」
「……ちなみに、どっちが強いとか分かるの?」
「魔力の大きさから考えると、下にいるやつのほうが強いな」
「じゃあ、この先にいる奴とはあたしが戦うわ。あなたは先に行ってちょうだい」
「分かった。じゃあ、ドアを開けるぞ」
開いたドアの先にあったのは特に物がない殺風景な広めの部屋だった。そして、部屋の奥にはいかにもな悪人面をしたモヒカンヘアの男がおり、その後ろにはまたドアがあった。十中八九、あのドアの先に下へと降りる階段があるのだろう。
おれが手早く部屋内の状況確認を終えると、おれ達のことを一瞥したモヒカンヘアの男が口を開いた。
「侵入者がいるってアニキが言ってたが、ガキが二人じゃねえか。こりゃ拍子抜けだな」
「フッ、人を見た目で判断すると、痛い目をみるぞ。死にたくないんだったらおとなしく道を空けろ」
「なんかやたらとカッコつけたガキだな。もしや、そういうお年頃かあ?」
おい、なんだ、カッコつけたって? 素直にカッコイイと言え。カッコイイと。
「……やれやれ。仕方ないな。サフィア、作戦通りここは任せたぞ」
「……え、ええ」
なんか、サフィアにちょっと引かれてる気がする。やめて、そういう反応しないで。……もういいや。さっさと先に進もう。
さて、ここではおれが一星魔術師だと気づかれる理由がない以上、別に風魔法しか使えないフリをする必要はない。だから、遠慮せず他の魔法も使おう。
そう思い、おれは当然のようにポケットに入れていた両手のうちの右手を前に出し、あえて速度を遅くした<剛塊岩石砲>を放った。
「なっ!? 危ねえ!!」
おれの<剛塊岩石砲>を自分の魔法や魔力障壁では防げないと判断したモヒカン男は、大きく横に跳んでその魔法を避けた。
おれはその隙にとある魔法を発動したあと、<剛塊岩石砲>によって砕け散ったドアの中に身体強化を発動した身体で素早く入りこむ。まあ、正直な話、今の魔法を普通に放てばあのヒカンヘアの男は倒せていたんだが、ここはサフィアの気持ちを汲んであいつの相手は任せよう。
「あのガキ、上級魔法を使えるのかよ……。ありゃ、オレ様には無理だな」
「あんたの相手はこのあたしがするわ。覚悟しなさい」
「おっ、よく見たらこっちの嬢ちゃんも金髪の子と同じでかなりの上玉じゃねえか。いいねえ!」
その言葉を聞いたサフィアはモヒカン男を強く睨み付けた。
「あんた、ミアに変なことしてないでしょうね!?」
「ああ、残念ながらなにもしてねえよ。アニキに金髪の子には指一本触れるなってきつく言われちったからなあ」
「……そう。良かった、安心したわ」
「けどよお、嬢ちゃんは別だ。これから、じっくり楽しませてもらうぜえ!」
その言葉を聞いたサフィアの全身から赤い魔力がほとばしり、臨戦態勢へと移行した。
「やれるもんならやってみなさい! あんたみたいなゴミは、このあたしが燃やし尽くしてあげるわよ!」