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第31話 やはりこれはデートだ!

 洋服屋を出た後、おれ達は色々と王都を見て回った。おれはともかく、リミアにとっては初の王都みたいな物なので、買い物というよりは観光という感じだった。


「そろそろ暗くなってきたし、どこかでご飯でも食べないか?」


「そうですね。お腹も空きましたし、夕御飯を食べて帰りましょう」


 というわけで、おれ達はちょうど帰り道にあった飲食店に立ち寄った。今日は休日ということもあり店内は混んでいたが、幸いまだ席には空きがあったようですぐに座ることができた。


 だが、席に着いた後、メニュー表を見たリミアが少し渋い顔をした。


「……やっぱり、こういうお店って高いんですね」


「まあでも、これくらいが普通かな」


 そんなに高くないお店だと思うが、そこは金銭感覚の違いだろうな。そして、今度もおれの出番のようだ。また、リミアは遠慮するだろうが問題ない。今回は、おれにいい考えがある。


「ここはおれが奢るから好きなのを頼んでいいぞ」


「い、いえ、そういうのは駄目ですよ」


「いいからいいから。その代わり、次にどこかに出かけたときはリミアが奢ってくれ」


「……そういうことなら。分かりました、ありがとうございます」


 よし、上手くいった。これで、リミアにご飯を奢ることができる上に、また出かけることも確約できるという、まさに一石二鳥の考えが成功した。


 その後、おれ達は肉料理とデザートの注文を済ませる。そして、料理が運ばれてくるまでの時間で雑談を楽しむことにした。


「おれ達が魔法学院に入学してからもうすぐ一ヶ月が経つんだよな」


「あと数日で五月ですし、気付けばあっという間でしたね」


「しかし、リミアもサフィアも偉いよなあ。授業だけで無く、放課後もほぼ毎日のように魔法の特訓をしているんだから」


「偉いだなんてそんなことないですよ。むしろ、いつも特訓に付き合ってくれてありがとうございます。レインさん」


「いやいや、全然いいって」


 いや、本当に全然いい。だって授業中だけでなく、放課後も美少女達と一緒にいられるんだから、これほど有意義な時間の使い方もないだろう。それは本当に楽しい時間であり、さらにその時間がまだまだ続くんだから、やはり魔法学院に入学して良かったと心から思う。


 そうして雑談を続けているとおれ達の注文した料理が出来たようで、まずは肉料理が運ばれてきた。


 肉料理の見た目は日本で言うところのステーキみたいな物だ。で、味のほうはと言うと、美味い。肉質はとても柔らかくて食べやすいし、それが甘めのソースとよくマッチしていた。


 やはり、王都というだけはあり、料理の質も高いな。まあ、おれの舌は大したことがないので、それなりであれば美味いと思ってしまうのだが。


 まあ、そんな舌だと、高い料理の良さを理解出来ないと言えばそうだが、逆に言うと、安い料理でも満足出来るということである。要は、一長一短であり、おれとしてはそんな舌で良かったと思う。


 さて、肉料理を食べ終え、次は食後のデザートだ。こちらの見た目は日本で言うところのケーキみたいな物だ。で、味のほうはと言うと、こっちも美味い。特に、クリームの甘さが絶品だった。


「これ、とっても美味しいですね」


 リミアが頬に手を当てて、幸せそうな顔をしながらそう言った。先ほどの肉料理も美味しそうに食べていたが、このデザートはそれ以上の反応だ。やはり、女の子は甘い物が好きなのだろう。


「良かったら、おれのも少し食べるか。リミアのとは味が違うし」


「いいんですか?」


「ああ、いいぞ。はい、あーん」


 そう言って、おれはデザートを一口フォークで取り、リミアに差し出した。もちろん、おれとしては冗談のつもりだったのだが、リミアは特に気にせずにそれを口にした。


「こっちも美味しいですね。ありがとうございます」


「……え、あ、うん、それは良かった」


「じゃあ、お礼にレインさんも一口どうぞ」


 そう言って、今度はリミアがデザートを一口フォークで取り、おれに差し出した。……え、いいの? これって、普通は恋人がやるやつなんじゃないの? あれ、もしかして、いつの間にかおれ達って恋人になってたの? 


「レインさん、どうかしたんですか?」


「い、いや、どうもしてない。じゃあ、いただくな」


 状況が飲み込めていないが、それをリミアに説明するのも気恥ずかしいので、おれも普通に食べた。その後、それを見ていたらしい近くの客が話し始めた。


「ねえねえ、見た? あの二人、食べさせあってたよ」


「すごい仲の良い恋人って感じだよね。いいなあ」


 そして、それを聞いたリミアの顔が次第に赤く染まっていった。そして、恥ずかしそうに顔を俯かせながら口を開く。


「……す、すいません。わたし、先ほどのがそういう物だと知らなくて……」


「……あ、ああ。大丈夫だ。おれは気にしてないから。というか、おれのせいだよな。おれのほうこそ、ごめん」


「……い、いえ、大丈夫です」


 なるほど。田舎育ちであるがゆえに、食べさせあいは基本的に恋人がやる振る舞いだと知らなかったのか。


 たぶん、おれがそれを知ったのはアニメか漫画だったと思うけど、この世界にはそういうのはないもんなあ。小説ならあるみたいだけど、田舎の村にはそれすらないのかもしれない。


 まあ、それはそれとして、今のは明らかに恋人のやり取りなので、やはりこれはデートだ!


 *****


 夕御飯を食べ終えたおれ達は、学生寮の近くにある大通りまで来ていた。ここを右に行けば女子寮で左に行けば、男子寮だ。


 女子寮のほうを見ると、その近くに学院の女子生徒と思われる人達が数人いるし、リミアを送るのはここまででいいだろう。やはり、男としては女子寮には近寄りがたいしな。


「じゃあ、ここで。おれは楽しかったけど、リミアはどうだった?」


「はい、わたしも楽しかったです」


 そう言って、リミアは微笑んだ。楽しかったことがありありと伝わってくる良い笑顔だと思う。


「今日は色々と付き合ってもらってありがとうございました。レインさんのおかげで、王都を見て回ることができました。それと、服やご飯も」


「いいっていいって。リミアが楽しめたのならおれも嬉しいよ。で、明日はサフィアと出かけるんだろ。そっちも楽しめるといいな」


「はい、ありがとうございます。明日も楽しみです」


 こうやって、リミアとのお喋りをもっと楽しみたいところではあるが、リミアは疲れているだろう。それに明日のことも考えれば、早めに帰してあげるべきだな。


「じゃあ、おれはこれで帰るから。また、学院で」


「はい、また。では、おやすみなさい」


「ああ、おやすみ」


 そう言葉を交わした後、おれ達は自分達の暮らす寮へと帰った。こうして、おれとリミアの初デートは終わりを迎え、明日はリミアとサフィアがデート……、もといお出かけを楽しむのだろう。


 だが、その明日に「また、学院で」というおれの言葉を違えることになる事件が起きた。


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