第27話 真の強者
「要するに、あなたの実力を秘密にしておけばいいのね」
「まあ、誰しも秘密はあるだろうしな。了承した」
サフィアとアイシス先輩の前でうっかり風魔法以外を使ってしまったが、リミアのときと同じような説明をして事なきを得た。……だ、大丈夫。吸収魔法のことは話してないからセーフ。
そう、吸収魔法のことを知っているのはおれと師匠を除けば、このおれの親友であるあいつしかこの世界に存在しない。だから、まだ全然セーフ。
いやーでも、あいつのときはしくじったよなあ。あいつはこのおれと近しいセンスの持ち主であったがゆえに意気投合した結果、ついカッコつけて話しちゃたんだよね。
と、過去の失敗を思い出していたおれに対し、サフィアが話しかけてきた。
「秘密にする代わりといってはなんだけど、<灼熱火炎弾>の使い方を教えてくれないかしら。……あ、でも今日はそもそもミアの特訓に来たんだったわね」
「別にいいですよ。わたしも興味がありますし」
ほう、<灼熱火炎弾>か。ちょうどいい。ならば、アレをみせてやろう。
おれは右手を横に構え、とあるカッコイイ魔法を発動した。
「……これが、……おれの<灼熱火炎弾>だ……」
「……え? これが<灼熱火炎弾>?」
「アイ先輩のと全然違う……?」
「これはまるで……巨大な炎鳥?」
おお、良い反応だな! そういうのが見たかったんだよ、おれは。
「教えてやろう。真の強者が発動する<灼熱火炎弾>はその姿を変える。そして、その圧倒的な破壊力と気高い姿から古代より異界(日本)ではこう呼ぶ……」
おれはそこで一度言葉を切り、堂々とカッコよく宣言する。
「カイザー……じゃなかった。<神聖不死鳥>!」
ちょっと言い間違いしかけたが、決まったな。さて、三人の感想が楽しみだ。
「圧倒的な破壊力ってことは<灼熱火炎弾>より威力が高いんですか?」
「………………同じですね」
「鳥の形をしているから、<灼熱火炎弾>より速いの?」
「………………同じですね」
「形状が違うから、多少は攻撃範囲も変わるのが<灼熱火炎弾>との差か?」
「………………し、強いて言えばそうですね」
くっ、おかしい。おれの思っていた感想と違って、普通に質問が飛んできてしまった。
「<灼熱火炎弾>との違いがほとんどないなら、その魔法ってなんの意味があるのよ?」
「おい、待て! 圧倒的な違いがひとつあるだろ!」
「なにが違うのよ?」
「その違いとは……、見た目のカッコよさだ!」
おれはそう力強く言い放った。だが、残念ながら三人とも理解出来なかったようで、全員頭にハテナマークを浮かべていた。
そういえば、これを師匠を見せたときも「それ、戦闘でなんの役に立つんだい?」みたいなことを言われて否定されたんだよなあ。
くそっ、やっぱあれか? 女の子はカッコイイ物を理解するのが難しいということか? ロボットとかその手のやつをカッコイイって思うのって基本的に男子だもんなあ。
いやでもさあ、せっかく異世界転生して魔法が使えるようになったんだから、アニメや漫画で見たカッコイイ魔法とか自分でも使ってみたいじゃん。だから、頑張って<灼熱火炎弾>の魔法術式をいじって形が不死鳥っぽくなるようにしたんだよ。
まあ、要するにあれだよ。DBを見た子どもが、か~め~は~め~波とかやるのと同じ心理だよ。
……はあ。そもそも、なんでおれは<神聖不死鳥>を見せたんだっけ?
……ああ、そうだ。サフィアが<灼熱火炎弾>の使い方を教えてくれって言ったんだったな。よし、ならばじっくりと教えてやろう。
「アイシス先輩、リミアの魔法練習を手伝ってもらっていいですか? おれはサフィアのほうを手伝うので」
「ああ、了解した。では、やろうか、アトレーヌ」
「は、はい、よろしくお願いします」
「よし、おれ達もやるぞ、サフィア。まずは手を出せ。<灼熱火炎弾>の魔法陣の描き方について教えてやる」
「ええ、お願い」
おれはまず、サフィアに出来るところまで<灼熱火炎弾>の魔法陣を描かせた。
「このあたりから難しいんだけど、どうすればいいの?」
「ああ、任せろ。ここからは、おれが補助してやる」
おれの協力により、サフィアの右手に<灼熱火炎弾>の魔法陣が完成した。
「よし、いいぞ。じゃあ、魔法陣に魔力を込めてみろ」
「分かったわ」
サフィアが右手の魔法陣に魔力を込める。魔法は無事成功し、サフィアの右手に大火球……、ではなく神聖なる不死鳥が姿を現した。
「………………ねえ、なにこれ?」
「なにって、<灼熱火炎弾>だろ」
「いや、違うでしょ! これあなたがさっき見せたディバインなんとかじゃない!」
「ディバインなんとかじゃない! <神聖不死鳥>だ! ほら、よく見ろ! 近くで見るとカッコイイだろ!」
おれはサフィアの右手にカッコよく顕現している神聖なる不死鳥を指さしながら、サフィアの言葉を強く訂正する。
「カッコイイとかどうでもいいから、普通に<灼熱火炎弾>を教えなさいよ!」
「嫌だ、断る! そうだ、せっかくだから口上も覚えろ。いいか? いくぞ。真の強者が発動する――」
「だから、そんなの覚える気がないって言ってるでしょ!」
こうして、おれの<神聖不死鳥>のお披露目は、残念な結果に終わってしまった。
……はあ。こうなったら仕方がない。今度の休みにおれの親友であるあいつのところに行こう。あいつはこの<神聖不死鳥>のカッコよさも理解してくれたからなあ。
27話を読んで頂きありがとうございました。
最近読み始めてくれた方、最初の頃から読んでくれていた方、また、ブックマークをしてくれた方もありがとうございました。とても嬉しいです。
それで、次の投稿時間ですが、明日11/23(土)と11/24(日)は午前0時頃にします。
以上です。これからも本作をよろしくお願いします。