第23話 意外な繋がり
おれがアイシス様みたいな美少女の顔を忘れることなどあるだろうか? いや、ない!
だとすると、幼少期に会っていたということか? それなら、さすがに忘れている可能性はある。
……はっ、まさか、おれ達は『ザクシャインラブ』という誓いの言葉を交わし、将来結婚しようという約束を交わしたにも関わらず、お互いのことを忘れてしまったとかそういうことなのか!?
おれが一つの答えにたどり着いたそのとき、おれの将来の結婚相手であるアイシス様が声を上げた。
「……そうだ、思い出したぞ。『戦場に咲いた可憐にして清麗かつ妖艶な薔薇の魔女』、ディーバ・バーンズアーク殿だ」
……あー、そっちかあ。そういえば、おれは師匠と同じ苗字を名乗ってるんだった。というか、師匠ってマジでそう呼ばれてたの? 美しさに異様に拘る師匠が勝手に自称してるんだと思ってたんだけど。
「君は薔薇の魔女殿の血縁者なのか?」
「……あー、まあ、そうですね。ついでに言うと、おれの師匠でもあります」
実際には血は繋がっていないので、歯切れの悪い答え方をしてしまった。だが、アイシス様はそこには触れずに話を続けてくれる。
「……そうか。確かに君の魔力量は圧倒的だ。実力も相当な物だと見て取れる。薔薇の魔女殿と近しいのならそれも納得だな」
「ちなみにアイシス様は――」
「今更ですまないが、『様』付けはしなくていいぞ。君はそういう堅苦しいのは苦手なのだろう? 私のほうは、バーンズアークでいいか?」
「大丈夫です。じゃあ改めて、アイシス先輩はなんで師匠を知っているんですか?」
「私のお祖母様と薔薇の魔女殿は幼少期からの友人であり、さらにかつての戦争では共に戦った戦友らしい。昔、お祖母様から何度か話を聞いたことがあるんだ」
なるほど、そういう繋がりか。というか、言われて思い出したけど、昔おれも師匠から似たような話を聞いた気がするな。
それと、一つ気付いたんだがアイシス先輩のお祖母様であり、おれの将来のお義祖母様でもあるその人の年齢が分かれば、師匠の実年齢もだいだい分かるということになるな。だが、もしそのことを師匠に知られたら後が怖いので、気にはなるが訊きたくはないなあ。
「なにかそのことで訊きたいことはあるか?」
「……いえ、師匠のことは本人から色々聞いているので。それより、別のことを訊いていいですか?」
「構わないよ。なんだ?」
「アイシス先輩のその格好ってどういうことなんですか? 他の生徒とは明らかに違いますけど?」
「ああ、これか。一応、生徒会長専用、というよりは私専用の服ということになるかな」
「というと?」
「私はありがたいことの多くの生徒から慕われているんだ。それで、容姿や得意魔法の影響で、男性からは『氷の姫君』、女性からは『氷の騎士様』と呼ばれている。そして、生徒会の皆も同様、いや、それ以上に私を慕ってくれている」
確かに、アイシス先輩がおれの教室まで来たときもやたらと周囲が騒いでいたからなあ。つまり、アイシス先輩は男女問わず学校中の人気者ということか。まるで、ギター・ザ・ヒーローさんみたいだな。
「それで、生徒会の皆が私専用の服を作ろうと言いだして出来たのがこの服だ。私としては呼ばれ方なども含め色々と気恥ずかしいのだが、その気持ちは嬉しいし無碍には出来ないから、こうして着用しているんだ」
それを聞いたおれは、改めてアイシス先輩の姿を確認する。
……なるほど。恐らく、女子生徒の制服に変化を加えることで姫君感を出し、帽子とマントで騎士様感を出しているのか。そして、氷だから全体的に青を基調とした色合いになった、とそういうことだろう。
さて、ここで訊きたいことがもう一つある。これが最も重要な質問だ。
「そのカッコイイマントって売ってたりとかしないんですか? 正直な話、欲しいんですが、アイシス先輩専用の服ってことはやっぱりそういうのは無いですよね」
「……ああ、生憎だがないな。だが、このマントが欲しいのならば、新しい物を作ることは可能だ。それで良ければ……。いや、私の一存では決められないな。生徒会の皆に確認して問題なければ、新しく作った物を君にあげよう」
「やった! ありがとうございます! ……ちなみに、それって値段はどれくらいなんですか?」
「……いや、無料で構わない。例の件を君は気にしてないと言っていたが、私としてはなにかしてあげたいからな。その詫び代わりとでも思ってくれ」
無料だと申し訳ない気がするが、今のおれはお金に余裕があるわけではない。ここは、アイシス先輩の厚意に甘えさせてもらおう。
「では、すいませんがそういうことでお願いします」
「ああ、では数日ほど待ってくれ。生徒会の皆は常に私の言うことには賛同してくれるから、問題なく許可はもらえるだろう。むしろ、やや妄信的なところがあるから、気になってはいるのだが……」
アイシス先輩は腕を組んでやや困ったような表情をしていた。やはり、人気者というのも色々と大変なんだろうな。
「さて、思いのほか長話をしてしまったな。他になければ、私はそろそろ失礼するが」
「……特にないですね。今日は気を遣ってもらってありがとうございました」
「なに、当然のことをしただけで、礼を言われるようなことじゃないよ。こちらこそ、時間を取らせて悪かった。では、またな」
「はい、また今度」
アイシス先輩は身を翻し、それに連動してマントがバサッと動いた。やっぱりマントって良いよなあ。あのカッコイイマントを貰えるのが楽しみだ。おれはアイシス先輩の背中を見送りながら、そんなことを考えていた。
しかし、最初はどうなることかと思ったが、蓋を開ければアイシス先輩はすごい良い人だったなあ。人格者で見た目も良く、さらには高ランクである七星魔術師の実力者。
そういえば、ルミル先生は八星魔術師で師匠は九星魔術師だから、おれは高ランクの魔術師達と知り合いになったと言える。
……まあ、師匠に関しては疑問の余地があるんだが、その全員が見目麗しく、さらには……。
……ん? あれ? いや、まさか、そんなことがあるのか……? ありえるのか……?
……もしかすると、おれはこの世界における一つの真理に気付いてしまったかもしれない。