第22話 メインヒロインは三人いても構わない
魔法学院に入学してから、数日後の放課後の教室。
授業も終わったしそろそろ寮に帰ろうかと思っていると、廊下のほうがざわざわしだした。なお、ざわざわであって、「ざわ……ざわ……」ではない。
「きゃー、二年生で生徒会長のアイシス様よ!」
「えっ、あのエディルブラウ公爵家のご令嬢!?」
「氷の騎士様よ! ああ、素敵だわ……」
「あれが氷の姫君か。なんて美しい……」
廊下から聞こえてくる言葉は全て一人の人間を指しているようだが、なんか情報量が多いな。聞こえてきた内容を整理すると、
名前 :アイシス・エディルブラウ
性別 :素敵で美しい女性(ここ重要!)
家柄 :公爵
学年 :二年
役職 :生徒会長
二つ名:氷の騎士様・氷の姫君
こんな感じか。
とりあえずひとつ言えることは、そのアイシス様とやらは二つ名を二つも持っていてカッコよくて羨ましいということか。……別に、二つ名を二つってのはダジャレじゃないよ。
さて、そのアイシス様がこの教室に入ってきたようで、入り口近くにいた女子生徒となにか話している。そして、話が終わると女子生徒はうっとりした目でアイシス様を見つめつつ、おれのほうを手で指し示した。
すると、アイシス様はこっちへ歩いてきたので、おれのほうはそのアイシス様を観察する。
……え、なにこの女の子、すっごい可愛い! アニメや漫画で言えば確実にメインヒロインになる美少女だよ!
しかも、すごいのはその非常に整った顔立ちだけじゃない。ショートヘアの青色の髪はとてもきれいで、まるで氷のように美しく輝いて見える。
さらに、スタイルも良く、出るところは出て、しまるところはしまってる美しいプロポーション。特に、胸はかなりでかい。英語で言うと、KANARIDEKAI。
まさに、非の打ち所のない美少女だ。そして、確信した。きっとこの美少女がおれの人生の三人目のメインヒロインだ、間違いない。
そんなおれの三人目のメインヒロインがすぐ近くまでやってきた。そして、おれの右肩の一星魔術師の紋章を確認したあとで口を開いた。
「君、すまないがこれから少し時間を取ってもらえるだろうか? なにか用事があれば後日で――」
「大丈夫です。行きましょう」
「……そ、そうか。返事が早いな」
そりゃ三人目のメインヒロインに言われたら食い気味に返事しちゃうよ。もし、なにか用事があったとしても、そっちを後日に回すレベルだ。
ただ、ひとつ気になるのはこのアイシス様、顔が少しこわばっているように見える。なにかに怒っていて、それを表情に出さないように気を付けている感じだ。
リミアとサフィアもそれに気付いたのか、それとも公爵家で生徒会長という強い肩書きを持つ相手におれが呼び出されたことが気になったようだ。アイシス様に聞こえないように、おれにこそっと耳打ちしてきた。
「レインさん、気を付けてくださいね」
こうやって心配してくれるとか、やはりリミアは優しいなあ。そして、リミアに続き、サフィアもおれに耳打ちしてきた。
「ねえ、あなた今度はなにをやらかしたのよ?」
おい、なんでおれがなにかやらかしたって決めつけてんだよ。
*****
おれは今、アイシス様に連れられて後ろを歩いている。
……あれ、さっきはアイシス様の顔と身体しか見てなくて……、顔と身体しか見てないってかなりひどい発言だと思うけど、こんなに美人でスタイルも良い女性が相手なら、男の本能的に仕方ないと思うんだ、うん。
……では気を取り直して、アイシス様のそのあまりに美しい容姿に目を奪われてしまい気が付かなかったけど、この人の制服は他の人と違うな。
色は銀白色ではなく、青色を基調としていてやや形状も違う。そして、なぜか騎士っぽい帽子とマントを身に付けていた。
こうして実際に見ると、やっぱマントってカッコイイよなあ。それに、この人のマントには心を惹かれる魅力がある。なんでこんな格好をしているのか気にはなるが、今は訊ける雰囲気じゃないし、あとで大丈夫そうな空気になったら訊いてみよう。
「よし、この辺りでいいだろう」
アイシス様がそう言ったこの場所は校舎裏で人気がない。なんかこの場所、あれだな。告白スポットっぽいね。……え、ちょっと待って! まさか、告白なの!? 初対面だと思うけど、この人って実はおれのことを知ってるのか?
驚きの展開におれが胸を高鳴らせていると、アイシス様が口を開いた。
「君が平民で一星魔術師の異常者と呼ばれているという話は本当なのか?」
……あー、そのことかあ。この人は公爵家、つまり貴族の人間みたいだし、おれのことが気にくわなくて怒っていたってことか。
まあ、嘘をついてもどうせバレるよな。それに、さっきこの人はおれの右肩にある一星魔術師の証拠を見ていたから、そこに関しては嘘をつきようがない。ならば、正直に答えよう。
「そうですけど、それがどうかしましたか?」
「……そうか。その話は嘘であって欲しかったんだが……」
アイシス様は大きくため息をついた。
さて、このあとはどうくる? アイシス様の右肩には七星魔術師の紋章が付いているし、おれの見立てでもこの人は相当強い。だが、実力行使ならば負ける気は微塵もしない。しかし、権力行使だった場合、勝てる気は微塵もしない。
アイシス様はおれの目をまっすぐに見つめる。そして、……なぜか頭を下げた。
「不快な思いをさせてしまい、申し訳ない。この学院の生徒会長として謝罪しよう」
「……えーと、どういうことですか?」
「言葉の通りだ。本来、出自や能力で他者を非難していい道理はない。それなのに、君には不快な思いをさせてしまった。その責任の一端は、この学院の生徒会長たる私にある」
あー、怒ってるように見えたのはそういうことか。おれじゃなくて、おれを罵倒していた奴に怒ってくれていたのか。そうなると、さっきのおれはそれに気付かずに勘違いしてしまったので、むしろこちらのほうが申し訳ない。
「いや、別にアイシス様が悪いわけじゃないですよ。それに、おれはその件については特に気にしてませんし……」
「……気にしていないとはどういうことだ?」
「いや、わりと気に入ってるんですよ。特に、異常者っていう呼ばれ方とかカッコよくて」
「……そ、そうなのか?」
アイシス様の顔にはおれの言っていることが理解出来ないと書かれていた。残念ながら、この人にも分かってもらえなかったようだ。
「……本当に君は大丈夫なのか? こうして事実確認も取れたし、私のほうでなんらかの対応をと考えていたのだが……」
「はい、大丈夫ですよ。なので、アイシス様も気にしないでください」
「……ああ、了解した。だが、なにか問題などあれば遠慮なく言ってくれ。生徒会長として君の力になろう」
「ありがとうございます。あっ、ていうか今更なんですけど、アイシス様って公爵家の人なんですよね? すいません、おれは礼儀とか全然分かってなくて……」
「いや、構わないよ。私は気にしないから、君の好きなように振る舞ってくれ」
どうやら、この人はずいぶんとできた人間のようだな。師匠の話によれば、この人は珍しいほうの良い貴族になる。
「ああ、そういえば、自己紹介がまだだったな。申し訳ない。もう私のことは知っているようだが、改めて名乗ろう。私はアイシス・エディルブラウだ」
「おれはレイン・バーンズアークです。よろしくお願いします」
「ああ、よろし……。ん……? どこかで聞いた名前だな……?」
そう言って、アイシス様は首をかしげた。
先ほど、「この人って実はおれのことを知ってるのか?」と思ったけど、本当におれのことを知っていたらしい。
いったい、どこで出会ったんだろう?
22話を読んで頂きありがとうございました。
最近読み始めてくれた方、最初の頃から読んでくれていた方、また、ブックマークをしてくれた方もありがとうございました。とても嬉しいです。
それで、次の投稿時間ですが、明日11/18(月)~11/22(金)は昼の12時頃にします。
以上です。これからも本作をよろしくお願いします。