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第21話 その術はおれに効く

 午後になり、訓練場にて実技の授業が始まった。


「は~い、ではみんな~、好きな人同士で組んで三人組のグループを作ってくださ~い」


 おいやめろ。


 やめてくれ、ルミル先生。その術はおれに効く。やめてくれ。


 ルミル先生の言葉に、前世でぼっちだったおれのつらい記憶が呼び起こされてしまった。


 どうして、わざわざ当人同士でペアとか組ませるんだよ。名前の順とかでいいじゃん。いやでも、それはそれできついなあ。相手が嫌なやつだったら困るし。


 さて、そんなトラウマは置いといてこの状況をどう切り抜ける? そう思っていたおれに対し、救いの手が差し伸べられた。


「あたしたちはこの三人でいいわよね?」


「はい、いいと思います。レインさんもそれでいいですか?」


「……え? あ、ああ、そうだな。もちろんいいぞ」


 そうだった。ここはもう前世ではなかったんだ。トラウマを刺激されたことで現在のおれの状況をすっかり忘れていた。


「は~い、みんな~、グループは組めましたね~。では~、説明を始めま~す。まずは~、簡単に魔法を使ってみましょうね~。最初に~、先生がお手本を見せま~す」


 そう言うと、ルミル先生は壁際に置いてある的に向かって土属性の下級攻撃魔法である<岩石砲(ガゼン)>を放った。


 その魔法は見事に的に命中し、当たった的は粉々に砕け散った。


「では~、こんな感じでみんなの魔法を的に当てる練習をしてくださ~い。では、はじめ~」


 ルミル先生のかけ声を聞いて、各グループともに魔法の練習が開始された。


「まっ、実技のほうも最初はこんなもんよね。これくらいあたしは楽勝だわ」


「まあ、おれも余裕だな」


「二人ともやっぱりすごいですね。わたしはあまり自信がないです」


「あら、そうなの? それならまず、あたしがお手本を見せてあげるわ」


 自信満々に言い切ったサフィアは、炎属性の下級攻撃魔法である<火炎弾(イグス)>を的に向かって放った。


火炎弾(イグス)>は的に命中はしたがその中心は外していた。どうやら、サフィアは魔法のコントロールはまだまだのようだ。あと、魔法の威力に関しても気になる部分はあるが、まあその辺もそのうち授業でやるだろうし今はいいだろう。


 そして、そんなおれの内心を知らないサフィアは堂々と胸を張っていた。


「ふふん、どうかしら?」


「すごいです、サフィアさん!」


「ありがと。じゃあ、次はミアの番よ。頑張りなさい」


「……は、はい」


 自信が無いせいか、リミアの顔は少しこわばっていた。なにか声をかけてあげたほうがようさうだな。


「リミア。これは練習なんだから、別に失敗したっていいんだ。だから、肩の力を抜いて気楽にやれ」


「……確かにそうですね。ありがとうございます」


 そう答えたリミアの目は先ほどよりは落ち着いていた。そして、その目はおれから的のあった壁際へと移される。


 おれも同じ場所を見ると、さっき<火炎弾(イグス)>で燃え尽きたはずの的が復活していた。どうやら、あの的は魔力で生成されており、自動で復活する仕組みになっているようだ。


「では、いきます。<閃光矢(ミナス)>!」


 リミアが放った光属性の下級攻撃魔法である<閃光矢(ミナス)>は残念ながら右に逸れてしまい、的には当たらなかった。しかし、あれが光魔法か。見るのは当然初めてだが、貴重なだけはあり確かに強力そうだな。


「……うう、やっぱり駄目でした」


「なに、気にするな。これからだ」


「これって、なにかコツとかってあるんですか?」


「コツか……。そうだな……」


 おれがリミアの問いにどうすべきか考えていると、それと同じような問いをルミル先生に訊いている男子生徒がいたようだ。ルミル先生は身振り手振りを交えながら、魔法のコツをその男子生徒に説明していた。


「う~ん、そうね~。先生、実技を教えるのは下手なんだけど~。こう~、てりゃ~ってやって、うりゃ~ってやる。もしくは~、とりゃ~って感じかな~」


「……そ、そうですか」


「ごめんね~。やっぱり分かりづらいよね~」


「い、いえ、そんなことないです! とてもよく分かりました!」


「そうなの~? 良かった~」


 いや、絶対分かってないだろ、あいつ。


 まあ、ルミル先生に気を遣って分かったフリをするその気持ちはよく分かる。だが、甘いな。おれなら、仮に分かったとしてもあえて、「分からないからもう一度お願いします」と答えてルミル先生の可愛い動きと癒やしボイスを間近でリピートするぞ。


 しかし、そんなことを考えていたおれに衝撃が走る。


「さっきの説明で分かるなんて、きみは本当に偉いね~。よしよし~」


 そう言って、ルミル先生はあの男子生徒の頭をなでなでしていた。……な、なんて羨ましいんだ。こうなったら、おれもルミル先生になにも分からないフリをして質問をするべきか?


「……あの、レインさん。どうかしましたか?」


 おれがずっとルミル先生のほうを見ていたせいで、リミアが疑問を投げかけてきた。いかん、今はちゃんとリミアの魔法の問題について考えてあげないといけないな。


 で、さっきのリミアのを見た感じだと、魔法陣を描くときに右手の魔力が偏ってしまったのが原因だろう。なら、それを調節してやればいい。


「リミア。おれが魔法陣を描くのを手伝うからちょっと右手に触れてもいいか?」


「はい、大丈夫です。よろしくお願いします」


 リミアが的に向かって伸ばした右手におれの右手を重ねる。あ、リミアの手って小さくて可愛い上に柔らかい。いや、そんなこと言ってる場合じゃねえよ。今は真面目に魔法の練習をしてるんだよ。


「よし、じゃあさっきと同じように魔法を放ってくれ。ただし、魔法陣を描くときはゆっくりな」


「分かりました。じゃあ、始めますね」


 おれはリミアの魔力の流れを感じ取り、そこに自分の魔力を加えることで魔力の偏りを調節した。その結果、今回の<閃光矢(ミナス)>は見事に的に命中した。


「やりました! ありがとうございます、レインさん!」


 リミアは魔法が初めてうまくいったことに喜び、おれの右手を両手で握って微笑んだ。やだ、なにこれ、おれもすごい嬉しいんだけど。


「じゃあ、今の感じで練習を続けよう。そのとき、リミアは自分の魔力の流れを感じ取るように意識してくれ。まあ、このへんは感覚の問題だから難しいんだけど」


「分かりました。やってみます」


 こうして、おれとリミアは練習を再開した。そして、それを見ていたサフィアがおれに声をかけてきた。


「実技試験のときも思ったけど、レインってやっぱりすごいのね。あたしは魔力の流れとかよく分からないわ」


「まあ、おれは最強を目指して幼少期から十数年ほどずっと修行をしてきたからな。文字通り、年季が違うぞ」


「よ、幼少期からって……。どうして、そんなに最強にこだわったのよ?」


「それはもちろん、カッコイイからだ!」


「…………ごめん、よく分からないわ」


 ……うーん、残念ながら、おれのカッコよさへのこだわりは、またしてもご理解いただけなかったようだ。


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