第180話 二人目のメインヒロイン
「話ってなんなの?」
「……あー、あれだな。リミアにはもうこの話をして了承はもらえてるし、来週はアイシス先輩にも話そうと思っていることなんだが。………………その前に、少し思い出話でもしない?」
「はあ? なんでよ?」
「まあ、いいからいいから」
「仕方ないわね」
しぶしぶながら、サフィアはおれの提案に了承してくれた。だって、サフィアの言う通り仕方ないじゃん。プロポーズなんて緊張するし、そもそもなんて言えばいいかが分からない。この一週間で考えてはみたのだが、残念ながら良い言葉は思いつかなかったし。
「じゃあ、初デートのときの話でもするか?」
「ええ、いいわよ。……あれは忘れもしない、あたしの誕生日のことよね」
「……確かにそれも初デートだけど、もう一つあるだろ?」
「もう一つ?」
「……あれをデートだと思ってるのは、やっぱりおれのほうだけだったか……」
「え、ちょっと待ってよ。ちゃんと思い出すから」
おれのぼやきのような言葉を気にしてくれたのか、サフィアは腕を組んで真剣に唸り出した。こんなに考えてくれるとか、やはりおれは良い彼女に恵まれたなあ。その良い彼女ことサフィアは数分後、なにか閃いたようで口を開く。
「もしかして、二人で演劇を見に行ったときの話?」
「おお、思い出してくれたのか」
「思い出したというかちゃんと覚えてるわよ。ただ、あれをデートだと思っていなかったから、すぐには分からなかったけど。というか、あなたはあれをデートだと思ってたの?」
「当然だ。おれは美少女とのお出かけは全てデートだと思っているからな」
「はあ……、レインらしいわね……。あのときはまだあなたと出会って二ヵ月も経ってなかったけど、思い返してみれば当時から女好きなところはあったわね」
表情を見るに、どうやらサフィアには呆れられてしまったようだ。あまり良くない流れなので、ここは話を逸らす必要があるだろう。幸いにして、ちょうどいい話がある。
「そういえば、あのとき見た演劇は面白かったよな」
「そうよね! すごい面白かったわ!」
思った通り、サフィアはこの話に食いついてきたな。あのときも、演劇を見終わった後のサフィアは楽しそうに延々と感想を言い続けていたからこうなると思ったぜ。
そして、演劇の話を始めてから数十分後――
「それで、あのときのシーンは――」
「なるほど」
「次に、あの台詞がとっても良くて――」
「すごいな」
なんか、また良くない流れになってきてしまった。だって、サフィアの話が一向に終わる気配を見せないし。また、どうにかして話の流れを変えないといけないのだがどうしよう? と思っている間もサフィアの話は続く。
「後は、やっぱりプロポーズのシーンよね。あのときは主役のティールがすごく真剣な顔で――」
「……あっ!!」
「な、なに? 急にどうしたのよ?」
突然、大きな声を上げたおれを、サフィアが驚いた顔で見た。だが、おれが大声を出してしまうのは無理もない。サフィアの話のおかげで、プロポーズの言葉が閃いたからな。
「サフィア、話がある」
「だ、だから、なんなのよ急に? しかも、そんなに真剣な……顔……で…………!」
先ほどの自分の言葉を思い出しておれがこれからなにを言うかに気付いたのか、サフィアの顔が次第に赤く染まっていく。そうやって、動揺しつつもなにかを期待するような目でおれを見る可愛い女の子。おれの人生の二人目のメインヒロインだ。
「サフィア、お前のことが大好きだ。おれと結婚してくれ」
かつて、サフィアが良いと言っていたシンプルでストレートなプロポーズ。それを受けたサフィアは両手を胸の前で重ねゆっくりと口を開く。その所作はまるで演劇のメインヒロインのように美しい。
「……はい、喜んで」
今まで見たどの微笑みよりも幸せそうな笑顔でサフィアはそう言った。おれは演劇の主役のごとく、メインヒロインにゆっくりと顔を近づけていく。互いの顔が重なり、おれ達は誓いの口づけを交わした。
……まではいいのだが、その後おれはサフィアをベッドに押し倒してしまう。まるで演劇の芝居のような言動をしたせいで、力が入ってしまったのかもしれない。だが、あのとき見た演劇にこんなシーンはないので、ここからはどうしたらいいか分からない。
分からないのでサフィアの顔を見ると、彼女はそっと目をつむった。その姿を見たおれは身体を下ろし、サフィアと再びキスをする。そのせいで、ただでさえ昂っていた気持ちがさらに上がっていってしまう。
もう、今すぐにでもサフィアとそういうことがしたい。というか、プロポーズは成功したんだからもうそういうことをしてもいいのでは? こんな状況になってもサフィアは抵抗する気配がないし大丈夫だよね?
そう思ったおれはサフィアが身に付けているバスローブの紐に手をかける。その紐を引っ張ってもサフィアはそれを止めず、おれの想いを受け入れてくれている。やがて、紐は完全にほどけ、サフィアの白くてきれいな身体が露わになる。
おれがその身体に手を伸ばそうとしたところで、サフィアが小さく声を出す。
「……ねえ、ちょっと待って」
「……! ご、ご、ごめん! やっぱ駄目だった!?」
「そうじゃないわ。そうじゃなくて、……あたしこういうことは初めてだから……、その、優しくしてね」
「……悪いが、それは約束しかねるというか」
「な、なんでよ……?」
普段は強気なサフィアには珍しく、その表情は弱々しく不安そうに見える。
「だって、こんなに魅力的な身体を目の前にしたら我慢が効きそうにないし、そもそもおれはもう我慢の限界と言うか」
その言葉に、サフィアは目を丸くする。そして、真っ赤な顔で呆れたように話し始める。
「……ホントにあなたってバカなんだから。でも、そういうことなら仕方ないし、代わりにあたしが我慢してあげる。だから――」
サフィアは無防備に両手を投げ出し、優しい瞳でおれを見た。
「だから、あなたは我慢しなくていいわよ」




